この児、さだめておどろかさむずらむと、待ちゐたるに、僧の、
「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」と言ふを、うれしとは思へども、
ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、
いま一声呼ばれていらへむと、念じて寝たるほどに、
「や、な起こしたてまつりそ。」をさなき人は、寝入りたまひにけり。」
と言ふ声のしければ、あな、わびしと思ひて、いま一度起こせかしと、
思ひ寝に聞けば、ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、
ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、
僧たち笑ふこと限りなし。
この児は、きっと(僧たちが自分のことを)起こしてくれるだろうと待っていたが、
ある僧 が(自分に)、「ものを申し上げます。(もしもし)おきなさい。」と言うのを、
(児は)うれしいとは思ったけれども、ただ一回で応えるのも、
(ぼたもちができ上がるのを自分が)待っていたのかと
(僧たちが)思うとまずいと思って、
もう一回呼ばれてから返事をしようと、我慢して寝ているうちに、
「やあ、お起こし申しあげるな。小さい人は、寝入っておしまいだ。」
と言う(別の僧の)声がしたので、ああ、困ったと思って、
もう一回起こしてくれよぅと思いつつ寝ていて(耳をすまして)聞いていると、
むしゃむしゃと(僧たちが)ただひたすら食べに食べる音がしたので、
どうしようもなくて、ずいぶんとあとになってから、
「はい!」と返事をしてしまったので、僧たちは大笑いした。
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
児、 | 名詞 |
さだめて | 副詞 |
おどろかせ | サ行四段活用動詞「おどろかす」未然形 |
むず | 推量の助動詞「むず」終止形 |
らむ | 現在推量の助動詞「らむ」終止形 |
と、 | 格助詞 |
待ちゐ | ワ行上一段活用動詞「待ちゐる」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
に、 | 格助詞 |
僧 | 名詞 |
の、 | 格助詞 |
「もの | 名詞 |
申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形 |
さぶらは | ハ行四段活用動詞「さぶらふ」未然形
丁寧語 補助動詞 僧→児 ~ございます |
む。 | 意志の助動詞「む」終止形 |
おどろか | カ行四段活用動詞「おどろく」未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 |
たまへ。」 | 尊敬語補助動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」命令形 |
This website uses cookies.
View Comments
とても役に立ちました。ありがとうございます。
お役に立てたようで良かったです!!コメントありがとうございます!