と言ひてけり。もろともに入れ奉る。道のほどに濡れ給へる香の、所狭う匂ふも、もてわづらひぬべけれど、かの人の御けはひに似せてなむ、もて紛らはしける。
(右近)「たいそう困ったことなのですが、(侍従のあなたも匂宮を薫に偽る)私と同じ心になって、このこと(匂宮を浮舟に引き合わせること)を周囲のみんなに隠してください」
と右近は若い侍従に言った。
右近と侍従は二人して、(匂宮をこっそり中に)お入れ申し上げる。
(雪が降る)道中、雪でお濡れになった(匂宮のお召し物の)香りがあたり一面に、匂うのも、(誰かに気づかれそうで)困ることなのだけれど、あの人(薫)のご様子に似せて、(他の女房の目を)ごまかしたのだった。
ここの人目も いとつつましさに、時方にたばからせ給ひて、 「川より遠方なる人の家に 率ておはせむ」と構へたりければ、先立てて遣はしたりける、夜更くるほどに参れり。 「いとよく用意してさぶらふ」 と申さす。
(匂宮が)夜の明けないのうちに宇治から京へ引き返しなさるのも、
かえって、(匂宮の思い)が募るだろうから、
それに、この邸の女房たちに見られるのも、
たいそうきまりが悪いので、
匂宮は、
時方にしかるべく計略をめぐらせなさって、
「(浮舟を)川の向こう岸の、とある人に家に、
お連れしよう」計画していたので、時方をその準備に川の向こうへ先に派遣してしていたのだが、
その時方が夜が更ける頃に帰参した。
(時方は)「準備万端ででございます」と(女房に)申し上げさせる。
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