「和歌の船に乗り侍らむ」とのたまひて、
詠み給へるぞかし、
をぐら山あらしの風の寒ければもみぢのにしき着ぬ人ぞなき
申しうけ給へつかひありてあそばしたりな。
(その時)この大納言=公任卿が参りなさったので、
入道殿が、「あの大納言=公任卿は、どの船にお乗りになるのだろう。」
と(人を通じて)おっしゃったところ、
(公任卿はそれを聞いて) 「和歌の船に乗りましょう。」とおっしゃって、
(次のような歌を)およみになったのですよ、
をぐら山……(木が茂る)小倉山や、対岸の嵐山から(その名の通り)
吹きおろす風が寒いので、(その風で散った)
紅葉が人々の着物に散りかかって、
だれもが美しい錦の衣を着飾っているようだ。
(御自分から)お願いして(和歌の船に)お乗りになっただけのことはあって、
(実にみごとに)お詠みになったものですなあ。
こ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
大納言殿 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
参り | 謙譲語ラ行四段活用動詞「参る」連用形 | 謙譲語 | 本動詞 | 世継⇒入道殿 | 参上する |
給へ | 尊敬の補助動詞「給ふ」已然形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 世継⇒大納言殿=公任 | ~なさる |
る | 完了の助動詞「り」連体形 | ||||
を、 | 接続助詞 | ||||
入道殿、 | 名詞 | ||||
「か | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
大納言、 | 名詞 | ||||
いづれ | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
船 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
か | 係助詞(係り結び) | ||||
乗ら | ラ行四段活用動詞「乗る」未然形 | ||||
る | 尊敬の助動詞「る」終止形 | 尊敬語 | 助動詞 | 入道殿⇒大納言殿 | ~なさる |
べき」 | 推量の助動詞「べし」連体形(「か」結び) | ||||
と | 格助詞 | ||||
のたまはすれ | 尊敬語ハ行四段活用動詞「のたまはす」已然形 | 尊敬語 | 本動詞 | 世継⇒入道殿 | (言う)仰る |
ば、 | 接続助詞 | ||||
「和歌 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
船 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
乗り | ラ行四段活用動詞「乗る」連用家 | ||||
侍ら | ラ行変格活用動詞「侍り」未然形 | 丁寧語 | 補助動詞 | 大納言殿⇒入道殿 | ~ます |
む」 | 意志の助動詞「む」終止形 | ||||
と | 格助詞 | ||||
のたまひ | 尊敬語ハ行四段活用動詞「のたまふ」連用形 | 尊敬語 | 本動詞 | 世継⇒大納言殿 | (言う)仰る |
て、 | 接続助詞 | ||||
詠み | マ行四段活用動詞「詠む」連用形 | ||||
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 世継⇒大納言殿 | ~なさる |
る | 完了の助動詞「り」連体形 | ||||
ぞ | 係助詞または終助詞学校の先生に確認すべし! | ||||
かし、 | 終助詞 | ||||
をぐら山 | 名詞 | ||||
あらし | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
風 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
寒けれ | ク活用形容詞「寒し」已然形 | ||||
ば | 接続助詞 | ||||
もみぢ | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
にしき | 名詞 | ||||
着 | カ行上一段活用動詞「着る」連用形 | ||||
ぬ | 打消 の助動詞「ず」連体形 | ||||
人 | 名詞 | ||||
ぞ | 係助詞(係り結び) | ||||
なき | ク活用形容詞「なし」連体形(「ぞ」結び) | ||||
申しうけ | カ行下二段活用動詞「申しうく」連用形 | 謙譲語 | 本動詞 | 世継⇒入道殿 | (言ひ受く)願い出てお引き受けする。 |
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 世継⇒大納言殿 | ~なさる |
る | 完了の助動詞「り」連体形 | ||||
かひ | 名詞 | ||||
あり | ラ行四段活用動詞「あり」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
あそばし | 尊敬語サ行四段活用動詞「あそばす」連用形 | 尊敬語 | 本動詞 | 世継⇒大納言殿 | (遊ぶ)(詩歌・狩猟・管弦などを)なさる。 |
たり | 完了の助動詞「たり」終止形 | ||||
な。 | 終助詞 |
「作文のにぞ乗るべかりける。さてかばかりの詩を作りたらましかば、
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