穴を掘りてはいひ入れ侍りけめと覚え侍り。
ですから、昔の人は、何か言いたくなると、
穴を掘っては(その中に思うことを)言い入れ
(て気持ちを晴らし)たのであろうと思われます。
かかれば | 接続詞 | ||||
こそ | 係助詞(係り結び) | ||||
昔 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
人 | 名詞 | ||||
は、 | 係助詞 | ||||
もの | 名詞 | ||||
いは | ハ行四段活用動詞「未然形」 | ||||
まほしく | 希望の助動詞「まほし」連用形 | ||||
なれ | ラ行四段活用動詞「なり」已然形 | ||||
ば、 | 接続助詞 | ||||
穴 | 名詞 | ||||
を | 格助詞 | ||||
堀り | ラ行四段活用動詞「掘る」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
は | 係助詞 | ||||
いひ入れ | ラ行下二段活用動詞「いひ入る」連用形 | ||||
侍り | ラ行変格活用動詞「侍り」連用形 | 丁寧語 | 補助動詞 | 大宅世継⇒夏山繁樹 | ~ます |
けめ | 過去推量の助動詞「けむ」已然形(「こそ」結び) | ||||
と | 格助詞 | ||||
覚え | ヤ行下二段活用動詞「覚ゆ」連用形 | ||||
侍り。 | ラ行変格活用動詞「侍り」終止形 | 丁寧語 | 補助動詞 | 大宅世継⇒夏山繁樹 | ~ます |
語の解説
昔の人 | 古人。「穴を掘りて~」は故事がありそうですが、詳しくわかっていないようです。 |
覚え侍り | 「覚え」は「思われる」「侍り」は「~ます」の意味の丁寧の補助動詞 |
さても、いくつにかなり給ひぬる」といへば、
かえすがえす、お会い申してうれしいことです。
ところで、 (あなたは)いくつにおなりでしたか。」というと、
かへすがへす | 副詞 | ||||
嬉しく | シク活用形容詞「嬉し」連用形 | ||||
対面し | サ行変格活用動詞「対面す」連用形 | ||||
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 | ||||
かな。 | 終助詞 | ||||
さても、 | 接続詞 | ||||
いくつ | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
か | 係助詞(係り結び) | ||||
なり | ラ行四段活用動詞「なり」連用形 | ||||
給ひ | 尊敬の補助動詞ハ行四段活用動詞「給ひ」連用形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 大宅世継⇒夏山繁樹 | ~なさる |
ぬる」 | 完了の助動詞「ぬ」連体形(「か」結び) | ||||
と | 格助詞 | ||||
いへ | ハ行四段活用動詞「いふ」已然形 | ||||
ば、 | 接続助詞 |
さても | ところで。さて話題を変えるときに使う。 |
「いくつといふこと、さらに覚え侍らず。
ただし、おのれは、故太政のおとど貞信公、
蔵人の少将と申しし折の小舎人童大犬丸ぞかし。
もう一人の老人=夏山繁樹が、
「いくつということはいっこう覚えておりません。
しかし、私は、故太政大臣貞信公が、
(まだ)蔵人の少将と申しあげた時分の、
小舎人童(としてお仕えしていた)大犬丸ですよ。
今 | 副詞 | ||||
ひとり | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
翁、 | 名詞 | ||||
「いくつ | 名詞 | ||||
と | 格助詞 | ||||
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 | ||||
こと、 | 名詞 | ||||
さらに | 副詞 | ||||
覚え | ヤ行下二段活用動詞「覚ゆ 」連用形 | ||||
侍ら | ラ行変格活用動詞「侍り」未然形 | 丁寧語 | 補助動詞 | 夏山繁樹⇒大宅世継 | ~ます |
ず。 | 打消 の助動詞「ず」終助詞 | ||||
ただし、 | 接続詞 | ||||
おのれ | 名詞 | ||||
は、 | 格助詞 | ||||
故太政のおとど貞信公、 | 名詞 | ||||
蔵人の少将 | 名詞 | ||||
と | 格助詞 | ||||
申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形 | 謙譲語 | 本動詞 | 夏山繁樹⇒故太政のおとど貞信公=藤原忠平 | (世間の人々が)申し上げる |
し | 過去の助動詞「き」連体形 | ||||
折 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
小舎人童大犬丸 | 名詞 | ||||
ぞ | 係助詞 | ||||
かし。 | 終助詞 |
今ひとりの翁 | もう一人の老人。夏山繁樹 |
さらに | 下に打消し語が来たときは、「決して、まったく・少しも」の意味「さらに~覚え侍らず」の「ず」が打消。「まったく~ない」「決して~ない」で覚えておこう! |
貞信公 | 藤原忠平880-949年。936年=承平6年から死ぬまで太政大臣だった。貞信公は、藤原忠平の諡(おくりな)死んだ後に、生前の業績にもとづいて送る称号のこと。忠平が「蔵人の少将」だったのは895年=寛平7年ごろ |
蔵人の少将 | 近衛の少将で、五位の蔵人をかねている人 |
申しし | 世間の人が申し上げた忠平に対する話し手=繁樹の敬意「~でいらっしゃった」とほぼ同じ。 |
小舎人童 | 近衛の中将・少将などに召し使われる少年。大犬丸は繁樹の童名。 |
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