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大鏡雲林院の菩提講品詞分解全訳序ノ一序ノ七

かかればこそ昔の人は、ものいはまほしくなれば、

穴を掘りてはいひ入れ侍りけめと覚え侍り。

 

現代語訳

ですから、昔の人は、何か言いたくなると、

穴を掘っては(その中に思うことを)言い入れ

(て気持ちを晴らし)たのであろうと思われます。

品詞分解

かかれば 接続詞
こそ 係助詞(係り結び)
名詞
格助詞
名詞
は、 係助詞
もの 名詞
いは ハ行四段活用動詞「未然形」
まほしく 希望の助動詞「まほし」連用形
なれ ラ行四段活用動詞「なり」已然形
ば、 接続助詞
名詞
格助詞
堀り ラ行四段活用動詞「掘る」連用形
接続助詞
係助詞
いひ入れ ラ行下二段活用動詞「いひ入る」連用形
侍り ラ行変格活用動詞「侍り」連用形 丁寧語 補助動詞 大宅世継⇒夏山繁樹 ~ます
けめ 過去推量の助動詞「けむ」已然形(「こそ」結び)
格助詞
覚え ヤ行下二段活用動詞「覚ゆ」連用形
侍り。 ラ行変格活用動詞「侍り」終止形 丁寧語 補助動詞 大宅世継⇒夏山繁樹 ~ます

語の解説

昔の人 古人。「穴を掘りて~」は故事がありそうですが、詳しくわかっていないようです。
覚え侍り 「覚え」は「思われる」「侍り」は「~ます」の意味の丁寧の補助動詞

かへすがへす嬉しく対面したるかな。

さても、いくつにかなり給ひぬる」といへば、

 

現代語訳

かえすがえす、お会い申してうれしいことです。

ところで、 (あなたは)いくつにおなりでしたか。」というと、

品詞分解

かへすがへす 副詞
嬉しく シク活用形容詞「嬉し」連用形
対面し サ行変格活用動詞「対面す」連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
かな。 終助詞
さても、 接続詞
いくつ 名詞
格助詞
係助詞(係り結び)
なり ラ行四段活用動詞「なり」連用形
給ひ 尊敬の補助動詞ハ行四段活用動詞「給ひ」連用形 尊敬語 補助動詞 大宅世継⇒夏山繁樹 ~なさる
ぬる」 完了の助動詞「ぬ」連体形(「か」結び)
格助詞
いへ ハ行四段活用動詞「いふ」已然形
ば、 接続助詞

語の解説

さても ところで。さて話題を変えるときに使う。

今ひとりの翁、

「いくつといふこと、さらに覚え侍らず。

ただし、おのれは、故太政のおとど貞信公、

蔵人の少将と申しし折の小舎人童大犬丸ぞかし。

 

現代語訳

もう一人の老人=夏山繁樹が、

「いくつということはいっこう覚えておりません。

しかし、私は、故太政大臣貞信公が、

(まだ)蔵人の少将と申しあげた時分の、

小舎人童(としてお仕えしていた)大犬丸ですよ。

品詞分解

副詞
ひとり 名詞
格助詞
翁、 名詞
「いくつ 名詞
格助詞
いふ ハ行四段活用動詞「いふ」連体形
こと、 名詞
さらに 副詞
覚え ヤ行下二段活用動詞「覚ゆ 」連用形
侍ら ラ行変格活用動詞「侍り」未然形 丁寧語 補助動詞 夏山繁樹⇒大宅世継 ~ます
ず。 打消 の助動詞「ず」終助詞
ただし、 接続詞
おのれ 名詞
は、 格助詞
故太政のおとど貞信公、 名詞
蔵人の少将 名詞
格助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形 謙譲語 本動詞 夏山繁樹⇒故太政のおとど貞信公=藤原忠平 (世間の人々が)申し上げる
過去の助動詞「き」連体形
名詞
格助詞
小舎人童大犬丸 名詞
係助詞
かし。 終助詞

語の解説

今ひとりの翁 もう一人の老人。夏山繁樹
さらに 下に打消し語が来たときは、「決して、まったく・少しも」の意味「さらに~覚え侍ら」の「ず」が打消。「まったく~ない」「決して~ない」で覚えておこう!
貞信公 藤原忠平880-949年。936年=承平6年から死ぬまで太政大臣だった。貞信公は、藤原忠平の諡(おくりな)死んだ後に、生前の業績にもとづいて送る称号のこと。忠平が「蔵人の少将」だったのは895年=寛平7年ごろ
蔵人の少将 近衛の少将で、五位の蔵人をかねている人
申しし 世間の人が申し上げた忠平に対する話し手=繁樹の敬意「~でいらっしゃった」とほぼ同じ。
小舎人童 近衛の中将・少将などに召し使われる少年。大犬丸は繁樹の童名。

 

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