今井四郎申しけるは、
「御身もいまだ疲れさせたまはず。御馬も弱り候はず。何によつてか一領の御着背長を重うはおぼし召し候ふべき。それは御方に御勢が候はねば、臆病でこそ、さはおぼし召し候へ。兼平一人候ふとも、余の武者千騎とおぼし召せ。矢七つ八つ候へば、しばらく防き矢仕らん。あれに見え候ふ、粟津の松原と申す。あの松の中で御自害候へ。」
とて、打つて行くほどに、また新手の武者五十騎ばかり出で来たり。
今井四郎と木曾殿、主従二騎になって、木曽殿がおっしゃったことは、
今井四郎が申上げたのは
「お体もまだお疲れになっておりません。御馬も弱りおりません。 どうして一領の御着背長を重くお感じなることがございましょうか。 それ(重く感じること)は味方に軍勢がございませんので、 気後れがして、そのように(鎧が重いなどと)お思いになるのでございましょう。 兼平一人がおりますのも、他の武者が千騎いるとお思い下さい。 矢が七つ八つございますので、しばらく防き矢をいたしましょう。 あそこに見えますのを、粟津の松原と申します。 あの松の中で御自害なさいませ。」 と言って、今井四郎兼平が馬を進めていくうちに、また新手の武者が五十騎ほで出で来た。 尊敬語本動詞 作者→木曽殿おっしゃる 丁寧語本動詞今井四郎兼平→木曽殿 なさる ポイント
品詞分解
今井四郎
名詞
木曾殿
名詞
主従二騎
名詞
に
格助詞
なつ
ラ行四段活用動詞「なる」連用形「なり」促音便
て
接続助詞
のたまひ
ハ行四段活用動詞「のたまふ」連用形
ける
過去の助動詞「けり」連体形
は
係助詞
「日ごろ
名詞
は
係助詞
何とも
副詞
覚え
ヤ行下二段活用動詞「覚ゆ」未然形
ぬ
打消の助動詞「ず」連連体形
鎧
名詞
が
格助詞
今日
名詞
は
係助詞
重う
ク活用形容詞「重し」連用形「重く」ウ音便
なつ
ラ行四段活用動詞「なる」連用形「なり」促音便
たる
完了の助動詞「たり」連体形
ぞ
係助詞
や」。
間投助詞
今井四郎
名詞
申し
サ行四段活用動詞「申す」連用形謙譲語本動詞作者→木曽殿申し上げる
ける
過去の助動詞「けり」連体形
は
係助詞
「御身
接頭語+名詞
も
係助詞
いまだ
副詞
疲れ
ラ行下二段活用動詞「疲る」未然形
させ
尊敬の助動詞「さす」連用形
たまは
ハ行四段活用補助動詞「たまふ」未然形尊敬語今井四郎兼平→木曽殿なさるいらっしゃる
ず。
打消の助動詞「ず」終止形
御馬
接頭語+名詞
も
係助詞
弱り
ラ行四段活用動詞「弱る」連用形
候は
ハ行四段活用動詞「候ふ」未然形丁寧語補助動詞今井四郎兼平→木曽殿ございます
ず。
打消の助動詞「ず」終止形
何
名詞
に
格助詞
よつ
ラ行四段活用動詞「よる」連用形「より」促音便
て
接続助詞
か
係助詞(係り結び)
一領
名詞
の
格助詞
御着背長
接頭語+名詞
を
格助詞
重う
ク活用形容詞「重し」連用形「重く」ウ音便
は
係助詞
おぼし召し
尊敬語本動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」連用形今井四郎兼平→木曽殿お思いになる
候ふ
丁寧語ハ行四段活用補助動詞「候ふ」終止形今井四郎兼平→木曽殿ございます
べき。
推量の助動詞「べし」連体形(「か」結び)
それ
代名詞
は
係助詞
御方(味方)
接頭語+名詞
に
格助詞
御勢
接頭語+名詞
が
格助詞
候は
丁寧語ハ行四段活用補助動詞「候ふ」未然形今井四郎兼平→木曽殿ございます
ね
打消の助動詞「ず」已然形
ば
接続助詞
臆病
名詞
で
格助詞
こそ
係助詞(係り結び)
さ
副詞
は
係助詞
おぼし召し
尊敬語本動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」連用形今井四郎兼平→木曽殿お思いになる
候へ。
丁寧語補助動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」已然形(「こそ」結び)
兼平一人
名詞
候ふ
丁寧語ハ行四段活用補助動詞今井四郎兼平→木曽殿ございます
とも
接続助詞
余
名詞
の
格助詞
武者千騎
名詞
と
格助詞
おぼし召せ。
尊敬語本動詞サ行四段活用動詞「おぼしめす」命令形
矢
名詞
七つ八つ
名詞
候へ
丁寧語本動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」已然形今井四郎兼平→木曽殿ございます
ば
接続助詞
しばらく
副詞
防き矢
名詞
仕ら
謙譲語本動詞ラ行四段活用動詞「仕る」未然形今井四郎兼平→木曽殿いたす
ん。
意志の助動詞「む」終止形
あれ
代名詞
に
格助詞
見え
ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」連用形
候ふ
丁寧語ハ行四段活用補助動詞今井四郎兼平→木曽殿ございます
粟津
名詞
の
格助詞
松原
名詞
と
格助詞
申す。
謙譲語本動詞サ行四段活用動詞「申す」終止形 今井四郎兼平→木曽殿申し上げる
あ
代名詞
の
格助詞
松
名詞
の
格助詞
中
名詞
で
格助詞
御自害
接頭語+名詞
候へ。」
ハ行四段活用動詞「候ふ」命令形
とて
格助詞
打つ
タ行四段活用動詞「打つ」連用形「打ち」ウ音便
て
接続助詞
行く
カ行四段活用動詞「行く」連体形
ほど
名詞
に
格助詞
また
副詞
新手
名詞
の
格助詞
武者五十騎
名詞
ばかり
副助詞
出で来
カ行変格活用動詞「出で来」連用形
たり。
完了の助動詞「たり」終止形
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学習塾で八年ぶりに、教鞭をとったのですが、とても分かりやすく、感動しました。47歳になるのですが、私の大学受験の時もこんなのがあれば、随分助かったのに、、と思います。
話が感動極まる作品内容な上に、品詞分解が とても素晴らしく、気持ちがひときわ入り込んでしまい、、頸を切られる所は、感極まり鼻水を垂らして大泣きしてしまい、問題集を涙だらけにしてしまいました。
有難うございました。
そう言っていただけて光栄です!お読みいただきありがとうございます!