いま二所も、苦む苦むおのおのおはさうじぬ。
花山帝は「(それ(=昭慶門の内部には道長一人で入ることでは)道長が大極殿まで行ったという)証拠がないなあ。」とおっしゃられるので、
(道長公は)「(帝の言うことも)その通りでございます」と仰って、花山帝がお手箱にお置きになってあった小刀を申し受けて、お立ちになった。
他のお二人(道隆公・道兼公)とも、渋々、それぞれおでかけになった。
「証 | 名詞 |
なき | ク活用形容詞「なし」連体形 |
こと。」 | 名詞 |
と | 格助詞 |
仰せ | 尊敬語サ行下二段活用動詞「仰す」未然形 |
らるる | 尊敬の助動詞「らる」連体形 |
に | 接続助詞 |
「げに。」 | 副詞 |
とて | 格助詞 |
御手箱 | 接頭語+名詞 |
に | 格助詞 |
置か | カ行四段活用動詞「置く」未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 |
給へ | 尊敬語補助動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 |
る | 完了の助動詞「り」連体形 |
小刀 | 名詞 |
まし(申し) | 謙譲語本動詞サ行四段活用動詞「ます(申す)」連用形 |
て | 接続助詞 |
立ち | ラ行四段活用動詞「立つ」連用形 |
給ひ | 尊敬語補助動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形。 |
いま | 副詞 |
二所 | 名詞 |
も | 係助詞 |
苦む苦む | 副詞 |
おのおの | 副詞 |
おはさうじ | 尊敬語本動詞サ行変格活用動詞「おはさうず」連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形。 |
かく仰せられ議するほどに、丑にもなりにけむ。
「道隆は右衛門の陣より出よ。道長は承明門より出でよ。」と、
それをさへ分かたせ給へば、しかおはしまし合へるに、
「子四つ(午前零時半ころ)。」と近衛府の役人が時刻を奏上してから、こういうように(=道隆は豊楽院、道兼は仁寿殿の塗籠、道長は大極殿へ行け)花山帝が仰せられ、相談しているうちに、
(時刻が経って)(出発は)丑の刻(午前一時ごろ)になってしまったのであろう。
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