本文

世の中の深きためしには、吉野の山と名に流れたるよりも、なほ奥なるみ吉野といふ所なりければ、もろこし(唐土)に渡りしは、aさるべき人bあまた(数多)して、cいふかひなく漕ぎ離れにX。Ⅰ忍びやかに、人すくなにて分け入り給ふほど(程)、世に知らず物/心細アき/に、ころ(頃)は三月の二十日のほどなれば、雪こそ積らY、谷の底などには、なほ(猶)うち消えとまりつつ、都にはみな(皆)青葉になりにし花のこずゑ、今盛りに開け、散り残れイも、風に知らせむ、Ⅱ惜しげに見え渡さるるに、もろこし(唐土)の事のみおぼ(思)しやられて、

 

現代語訳

 

世の中の深い山の例には、吉野の山が評判だが、その評判の吉野の山よりも更に奥にあるみ吉野というところだったので、かつて中納言が唐土に渡った時には、しかるべき人々をたくさん連れて、いいようもない気持ちで日本を漕ぎ離れてしまったが、(今回は、華やかだった唐土渡りの様子とは違って)、ひと目を避けるように少ない人数で奥深い山を分け入りなさる様子は、たとえようもなく心細く、時の頃は三月の二十日頃なので、雪こそ積もってはいないものの、谷の底などには、やはり雪が消えのこって、都にあっては皆、青葉になってしまった桜の梢が、(山奥のここ=み吉野では)今を盛りに咲き、散り残っているのも、風に知らせて(吹き散らされるのが)、惜しそうに一面に見渡されるので、(中納言は、)唐土の御方の事ばかりがお想い遣られて、

 

 

東洋大学ではこう聞かれた

aさるべきの意味は?

bあまたの意味は?

cいふかひなくの意味は?

⇒単語覚えるべし!!

a相応な 立派な 前世からの運命

bたくさん 数多と書きます。たっぷり感が伝わってきますね。

cいいようもなく 言うほどの甲斐がない

 

X助動詞「き」を活用させると?

⇒うしろが句点、◯で終わっているから終止形、せ/◯//し/しか/◯ は大丈夫でしょうか。覚えてなければ今すぐ20回唱えて覚えるべし!

 

の文法的説明は?

⇒(ク活用)形容詞「心細し」の連体形

ク活用形容詞の活用↓

◯(く)・から/く・かり/し/・かる/けれ/◯・かれ

 

確認しておきましょう。

 

Y助動詞「ず」を活用させると?

⇒係助詞「こそ」の係り結びに注意です。

打消の助動詞「ず」の接続は未然形
[な]ず・ざら/[に]ず・ざり/ず/ぬ・ざる/・ざれ/ざれ

 

の文法的説明は?

⇒完了の助動詞「り」の連体形

接続はサ変の未然形・四段の已然形
ら/り/り//れ/れ

ここはラ行四段活用動詞「残る」の已然形「残れ」に接続しています。

完了の助動詞「り」は 『e+らりるれ』 を覚えておきましょう

e

 

忍びやかに/人すくなにて/分け入り給ふほどから伺われる中納言の様子は?

ひと目を避けるように少ない人数で山へ入る様子

⇒単語の対応を見極めよう。忍びやかに、人少なにて

 

惜しげに見え渡さるるにとはどのような景色か?

桜の花が散り残っている梢が、風に吹き散らされるのも惜しい景色

⇒傍線前の「花のこずゑ、今盛りに開け、散り残れイも、風に知らせむ」に注目し、単語の対応「惜しげに」を見極めよう。

結局何ができればいいの?

  • 単語「さるべき」「あまた」「いふかひなし」を暗記する
  • 過去の助動詞「き」の活用を暗記する
  • ク活用形容詞「心細し」を覚えて活用できるようにする
  • 係助詞「こそ」に気づく
  • 打消の助動詞「ず」の活用を暗記する
  • 完了の助動詞「り」の活用を暗記する
  • e+らりるれを見抜けるようにする
  • 「忍びやかに」「人少なにて」「惜しげに」等単語の対応を見極められるようにする

 

恋しさはおくれざりけりみ吉野の山より深く思ひ入れども

かくておはし着きたれば、山のかた(方)にA堂いとをかしう建てて、我がゐどころ(居所)は、廊だつ物を、いとdかりそめに造りて住ひたるありさま(有様)、鳥の音だに、よのつね(尋常)なるはB聞こゆべうもあらぬ世界に、呉竹(くれたけ)を隔てて人の家はZ見ゆる。C誰(たれ)かはかかる住まひする人のあらむと、見つつ入り給へば、聖思ひもよらず、eあさましげに思ひおどろ(驚)きたる様限りなし。D弟子どもなど立ち騒ぎ、清めし、よき御座など参りて入れたてまつ(奉)りけり。

現代語訳

 

 

私の唐后への恋しい想いは遅れずについてくることだ

都よりも遅れて桜が咲くみ吉野の山より深く唐后を思い込んでいるけれども

 

 

かくあってお着きになられたところ、山の方に御堂をたいそう趣深く建てて、(聖自身の)住まいは廊下らしきものを一時的に造って暮らしている様子で、鳴く鳥の声さえも、世間にありふれた声は聞こえるはずもない世界に、呉竹を隔てた向こうに聖の住居は見える。

一体こんな暮らしをする人は誰だろうかと思いながら、(中納言が)中にお入りになると、聖は想いもよらずぎょっと驚き呆れるほど思って驚く様はこの上ない。

聖の弟子たちなどが騒ぎ立てて、洗い清めてよい御座所などをご用意申し上げて、お入れ申し上げた。

 

東洋大学ではこう聞かれた

Z見ゆる見ゆを活用させると?

⇒係助詞「ぞ」があるので連体形にする。「見ゆ」はヤ行下二段活用

見え/見え/見ゆ/見ゆる/見ゆれ/見えよ

A堂いとをかしう建てての解釈は?

堂をたいへん趣深く建てて

「をかし」は「趣深い」で覚えておこう。それだけで点取れます

B聞こゆ/べう/も/あら/ぬ世界にの解釈は?

聞こえるはずもない世界

「べう」は推量の助動詞「べし」の連用形「べく」のウ音便

山奥では鳥の声もしないほど静寂があると考えられていたことを古文常識として知っておこう

C誰(たれ)かはかかる住まひする人のあらむの解釈は?

一体こんな暮らしをする人は誰だろうか

「かは」は反語、疑問。ここでは疑問なので慣れておこう。

D弟子どもなど立ち騒ぎの解釈は?

弟子たちなどが、驚き騒ぎ立てて

単語の対応を見よう。弟子ども=弟子たち など=など 立ち騒ぐ=騒ぎ立てる

dかりそめにの意味は?

一時的に

建物の場合「一時的に」の意味になることが多い

eあさましげにの意味は?

ぎょっと驚いた様子で

「あさましげなり」は形容詞の「あさまし」を「驚き呆れる」「興ざめだ」から類推しよう。単語暗記、頑張るべし!

 

結局何ができればいいの?

  • 単語「をかし」「かりそめなり」「あさましげなり(あさまし)」を暗記する
  • ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の活用を言えるようにする
  • 「べう」が助動詞「べし」の連用形のウ音便であると見抜けるようにする
  • 「かは」の疑問に反応できるようにする

 

 

聖は年六十ばかりにて、もと人がら(柄)は、E口惜しききは(際)にはあらざりければにや、なげの老人(おいびと)とも見えず、物/清げウに/さらぼいて/賤しエから/ず、住ひなどきたな(穢)げならずしなして、堂どもfあらまほしげなり。

現代語訳

聖は年齢が六十くらいで、もともとの人となりが、取るに足らない身分ではなかったためかありふれた老人とも見えずに、こざっぱりとしてやせていてみすぼらしくなく、住まいなども見苦しくなく整えて、御堂のたたずまいなどもいかにも好ましい感じである。

東洋大学ではこう聞かれた

E口惜しききは(際)にはあらざりければにやの解釈は?

取るに足らない身分ではなかったためか

「口惜し」残念だ 「際」身分

直訳は「残念な身分ではなかったからだろうか」

 

の文法的説明は?

形容動詞の一部 「清げなり」の連用形「清げに」

⇒形容動詞の活用は大丈夫?

なら/なり・に/なり/なる/なれ/なれ

からの文法的説明は?

形容詞の一部 シク活用形容詞「賤し」の未然形「賤しから」

◯(しく)・しから/しく・しかり/し/き・しかる/しけれ/◯・しかれ

fあらまほしげなり。の意味は?

好ましい

「好ましい」「理想的だ」を覚えておこう。

結局何ができればいいの?

  • 「口惜し」「際」「あらまほし」を暗記する
  • ナリ活用形容動詞を見抜けるようにする
  • シク活用形容詞を見抜けるようにする