訳
(そこで男は)自分の着ていた狩衣の裾を切って、(それに)歌を書いて贈った。
男 | 名詞 |
の | 格助詞 |
着 | ラ行上一段活用動詞「着る」連用形 |
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
狩衣 | 名詞 |
の | 格助詞 |
裾 | 名詞 |
を | 格助詞 |
切り | ラ行四段活用動詞「切る」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
歌 | 名詞 |
を | 格助詞 |
書き | カ行四段活用動詞「書く」連用形 |
て | 接続助詞 |
やる | ラ行四段活用動詞「やる」終止形 |
その男、しのぶずりの狩衣をなむ着たりける。
訳
(その時)その男は、しのぶ摺りの狩衣を着ていたのである。
※しのぶずりは、しのぶ草をすりつけて初めた布。
一説に奥州信夫郡(今の福島市南部)の名産にちなんでそう呼ばれたといわれる。
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
男、 | 名詞 |
しのぶずり | 名詞 |
の | 格助詞 |
狩衣 | 名詞 |
を | 格助詞 |
なむ | 係助詞 |
着 | カ行上一段活用動詞「着る」連用形 |
たり | 存続の助動詞「たり」連用形 |
ける。 | 過去の助動詞「けり」連体形。「なむ」結び |
春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れ
限り知られず
訳
(この)春日野に生んている若い紫草で染めたこのす
り衣の乱れ模様のように、(私の心はあなた方を)思う
心で限りなく乱れております。
※「しのぶの乱れ」は、
「しのぶ摺りの乱れ模様」と「恋いしのび乱れる心」との掛詞になっている。
春日野 | 名詞 |
の | 格助詞 |
若紫 | 名詞 |
の | 格助詞 |
すり衣 | 名詞 |
しのぶ | 名詞 |
の | 格助詞 |
乱れ | 名詞 |
かぎり | 名詞 |
しら | ラ行四段活用動詞「しる」未然形 |
れ | 可能の助動詞「る」未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
となむ追ひつきて言ひやりける。
訳
と即興て詠んでやった。