と語らひ慰めて、
「神仏こそは、さるべき方にも導き知らせたてまつりたまはめ。近きほどに、八幡の宮と申すは、かしこにても参り祈り申したまひし松浦、筥崎、同じ社なり。かの国を離れたまふとても、多くの願立て申したまひき。今、都に帰りて、かくなむ御験を得てまかり上りたると、早く申したまへ」
とて、八幡に詣でさせたてまつる。それのわたり知れる人に言ひ尋ねて、
五師とて、早く親の語らひし大徳残れるを呼びとりて、詣でさせたてまつる。
分析済み本文
住みつくべきやうもなきを、母おとど、(は)明け暮れ嘆き/いとほしがれ/ば、
(豊後の介)「何か。 この身はいとやすくはべり。(姫君)人一人の御身に(我が身を)代へたてまつりて、 いづちもいづちもまかり失せなむに咎あるまじ。我らいみじき勢ひになりても、若君をさるものの中にはふらしたてまつりては、何心地かせまし」
と(母を)語らひ慰めて、
(豊後)「神仏こそは、さるべき方にも導き知らせたてまつり/たまはめ。近きほどに、八幡の宮と申すは、かしこ(筑紫)にても参り/祈り/申し/たまひ/し松浦、筥崎、同じ社なり。かの国を離れたまふとても、多くの願立て申し/たまひき。今、都に帰りて、かく/なむ/御験を得てまかり上りたると、早く(八幡宮に)申し/たまへ」
とて、(姫君を)八幡に詣でさせたてまつる。それ(八幡)のわたり知れる人に言ひ尋ねて、
五師とて、早く親の語らひし大徳(が)残れるを呼びとりて、(姫君を)詣でさせたてまつる。
東洋大学ではこう聞かれた
「この身はいとやすくはべり」の解釈は?
「め」の文法的な説明は?
「得」の動詞の活用の種類は?
「る」の文法的な説明は?
品詞分解して確かめよう
住みつく | カ行四段活用動詞「住み着く」終止形 |
べき | 可能の助動詞「べし」連体形 接続は終止形、ラ変型は連体形 べく・べから/べく・べかり/べし/べき・べかる/べけれ/◯ |
やう | 名詞 |
も | 係助詞 |
なき | ク活用形容詞「なし」連体形 |
を、 | 格助詞 |
母おとど、 | 名詞 |
明け暮れ | 副詞 |
嘆き | カ行四段活用動詞「嘆く」連用形 |
いとほしがれ | ラ行四段活用動詞「いとほしがる」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
「何か。 | 感動詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
身 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
いと | 副詞 |
やすく | ク活用形容詞「やすし」連用形 |
はべり。 | 丁寧語補助動詞ラ行変格活用「はべり」終止形 |
人一人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
御身 | 名詞 |
に | 格助詞 |
代へ | ハ行下二段活用動詞「代ふ」連用形 |
たてまつり | 謙譲語 補助動詞 ラ行四段活用動詞「奉る」連用 |
て、 | 接続助詞 |
いづち | 代名詞 |
も | 係助詞 |
いづち | 代名詞 |
も | 係助詞 |
まかり失せ | サ行下二段活用動詞「まかり失す」連用形 |
な | 強意の助動詞「ぬ」未然形 接続は連用形 な/に/ぬ/ぬる/ぬれ/ね |
む | 推量の助動詞「む」連体形 |
に | 格助詞 |
咎 | 名詞 |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
まじ。 | 打消推量の助動詞「まじ」終止形 接続は終止形、ラ変型には連体形 (まじく)・まじから/まじく・まじかり/まじ/まじき・まじかる/まじけれ/◯ |
我ら | 代名詞 |
いみじき | シク活用形容詞「いみじ」連体形 |
勢ひ | 名詞 |
に | 格助詞 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
て | 接続助詞 |
も、 | 係助詞 |
若君 | 名詞 |
を | 格助詞 |
さる | ラ行変格活用動詞「さり」連体形 |
もの | 名詞 |
の | 格助詞 |
中 | 名詞 |
に | 格助詞 |
はふらし | サ行四段活用動詞「はふらす」連用形 |
たてまつり | 謙譲語補助動詞 ラ行四段活用動詞「奉る」連用形 |
て | 接続助詞 |
は、 | 係助詞、 |
何心地 | 名詞 |
か | 係助詞(係り結び) |
せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
まし」 | 反実仮想の助動詞「まし」連体形(「か」結び) 接続は未然形 (ませ)・ましか/◯/まし/まし/ましか/◯ |
と | 格助詞 |
語らひ慰め | マ行下二段活用動詞「語らひ慰む」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
「神仏 | 名詞 |
こそ | 係助詞(係り結び) |
は、 | 係助詞、 |
さる | ラ行変格活用動詞「さり」連体形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 接続は終止形、ラ変型は連体形 べく・べから/べく・べかり/べし/べき・べかる/べけれ/◯ |
方 | 名詞 |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
導き知らせ | カ行四段活用動詞「導き知らす」 |
せ | 使役の助動詞「す」連用形 接続は四段・ナ変・ラ変の未然形 せ/せ/す/する/すれ/せよ |
たてまつり | 謙譲語補助動詞ラ行四段活用動詞「奉る」連用形 |
たまは | 尊敬語 ハ行四段活用動詞「給ふ」未然形 |
め。 | 推量の助動詞「む」已然形(「こそ」結び) 接続は未然形 ◯/◯/む/む/め/◯ |
近き | ク活用形容詞「近し」連体形 |
ほど | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
八幡の宮 | 名詞 |
と | 格助詞 |
申す | 謙譲語本動詞サ行四段活用動詞「申す」連体形 |
は、 | 係助詞、 |
かしこ | 代名詞 |
にて | 格助詞 |
も | 係助詞 |
参り祈り | 謙譲語本動詞ラ行四段活用動詞「参り祈る」連用形 |
申し | 謙譲語補助動詞 サ行四段活用動詞「申す」 連用形 |
たまひ | 尊敬語 ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
松浦、 | 名詞 |
筥崎、 | 名詞 |
同じ | シク活用形容詞「同じ」連体形 |
社 | 名詞 |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 接続は体言連体形など なら/なり・に/なり/なる/なれ/なれ |
か | 代名詞 |
の | 格助詞 |
国 | 名詞 |
を | 格助詞 |
離れ | ラ行下二段活用動詞「離る」連用形 |
たまふ | 尊敬語補助動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」終止形 |
と | 格助詞 |
て | 接続助詞 |
も、 | 係助詞 |
多く | ク活用形容詞「多し」連用形 |
の | 格助詞 |
願 | 名詞 |
立て | タ行下二段活用動詞「立つ」連用形 |
申し | 謙譲語補助動詞サ行四段活用動詞「申す」連用形 |
たまひ | 尊敬語 ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 |
き。 | 過去の助動詞「き」終止形 接続は連用形(カ変・サ変は特別) せ/◯/き/し/しか/◯ |
今、 | 名詞 |
都 | 名詞 |
に | 格助詞 |
帰り | ラ行四段活用動詞「帰る」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
かく | 副詞 |
なむ | 係助詞(係り結び) |
御験 | 名詞 |
を | 格助詞 |
得 | ア行下二段活用動詞「得(う)」連用形 |
て | 接続助詞 |
まかり上り | 謙譲語本動詞ラ行四段活用動詞「まかり上る」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形(「なむ」結び) 接続は連用形 たら/たり/たり/たる/たれ/たれ |
と、 | 格助詞 |
早く | ク活用形容詞「早し」連用形 |
申し | 謙譲語本動詞サ行四段活用動詞「申す」連用形 |
たまへ」 | 尊敬語 補助動詞 ハ行四段活用動詞「給ふ」命令形 |
と | 格助詞 |
て、 | 接続助詞 |
八幡 | 名詞 |
に | 格助詞 |
詣で | ダ行下二段活用動詞「まうづ」未然形 |
させ | 使役の助動詞「さす」連用形 接続は未然形 させ/させ/さす/さする/さすれ/させよ |
たてまつる。 | 謙譲語補助動詞ラ行四段活用動詞「奉る」終止形 |
東洋大学で出た本文
「うち次ぎては、仏の御なかには、初瀬なむ、日の本のうちには、あらたなる験現したまふと、唐土にだに聞こえあむなり。まして、わが国のうちにこそ、遠き国の境とても、年経たまへれば、若君をばまして恵みたまひてむ」