『この鏡には、文や添ひたりし。』と問ひ給へば、かしこまりて、
『文もさぶらはざりき。「この鏡をなむ奉れ」と侍りし。』と答へ奉れば、
『あやしかりけることかな。文添ふべきものを』とて、
『この鏡を、こなたに写れる影を見よ。これを見れば、
あはれに悲しきぞ。』とて、さめざめと泣き給ふを見れば、
臥しまろび泣き嘆きたる影写れり。
こ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
鏡 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
は、 | 係助詞 | ||||
文 | 名詞 | ||||
や | 係助詞(係り結び) | ||||
添ひ | ハ行四段活用動詞「添ふ」連用形 | ||||
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 | ||||
し。』 | 過去の助動詞「き」連体形(「や」結び) | ||||
と | 格助詞 | ||||
問ひ | ハ行四段活用動詞「問ふ」連用形 | ||||
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 作者⇒女 | ~なさる |
ば、 | 接続助詞 | ||||
かしこまり | ラ行四段活用動詞「かしこまる」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
『文 | 名詞 | ||||
も | 係助詞 | ||||
さぶらは | ハ行四段活用動詞「さぶらふ」未然形 | 丁寧語 | 本動詞 | 僧→女 | (あり)あります |
ざり | 打消 の助動詞「ず」連用形 | ||||
き。 | 過去の助動詞「き」連体形 | ||||
「こ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
鏡 | 名詞 | ||||
を | 格助詞 | ||||
なむ | 係助詞(係り結び) | ||||
奉れ」 | ラ行四段活用動詞「奉る」命令形(係り結びは流れている) | 謙譲語 | 本動詞 | 母→寺 | (贈る)献上する |
と | 格助詞 | ||||
侍り | ラ行変格活用動詞「侍り」連用形 | 丁寧語 | 本動詞 | 僧→女 | (あり)ございます |
し。』 | 過去の助動詞「き」連体形 | ||||
と | 格助詞 | ||||
答へ | ハ行下二段活用動詞「答ふ」連用形 | ||||
奉れ | ラ行四段活用動詞「奉る」已然形 | 謙譲語 | 補助動詞 | 作者⇒女 | ~申し上げる |
ば、 | 接続助詞 | ||||
『あやしかり | シク形容詞「あやし」連用形 | ||||
ける | 詠嘆の助動詞「けり」連体形 | ||||
こと | 名詞 | ||||
かな。 | 終助詞 | ||||
文 | 名詞 | ||||
添ふ | ハ行四段活用動詞「添ふ」終止形 | ||||
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 | ||||
もの | 名詞 | ||||
を。』 | 接続助詞 | ||||
と | 格助詞 | ||||
て、 | 接続助詞 | ||||
『こ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
鏡 | 名詞 | ||||
を | 格助詞 | ||||
こなた | 代名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
写れ | ラ行四段活用動詞「写る」已然形 | ||||
る | 完了の助動詞「り」連体形 | ||||
影 | 名詞 | ||||
を | 格助詞 | ||||
見よ。 | マ行上一段活用動詞「見る」命令形 | ||||
これ | 代名詞 | ||||
見れ | マ行上一段活用動詞「見る」已然形 | ||||
ば、 | 接続助詞 | ||||
あはれに | ナリ活用形容動詞「あはれなり」連用形 | ||||
悲しき | シク活用形容詞「悲し」連体形 | ||||
ぞ。』 | 係助詞終助詞的な用法 | ||||
と | 格助詞 | ||||
て、 | 接続助詞 | ||||
さめざめと | 副詞 | ||||
泣き | カ行四段活用動詞「泣く」連用形 | ||||
給ふ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連体形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 作者⇒女 | ~なさる |
を | 格助詞 | ||||
見れ | マ行上一段活用動詞「見る」已然形 | ||||
ば、 | 接続助詞 | ||||
臥しまろび | バ行四段活用動詞「臥しまろぶ」連用形 | ||||
泣き嘆き | カ行四段活用動詞「泣き嘆く」連用形 | ||||
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 | ||||
影 | 名詞 | ||||
写れ | ラ行四段活用動詞「写る」已然形 | ||||
り。 | 完了の助動詞「り」終止形 |