火事の見舞いに来た人々は、
人ども
「(自分の家が焼けてしまったのに、儲けものをしたと言っているなんて、)
これはどうして、このように(燃える自分の家の前でただただ炎を眺めて)立っているのだ。
驚き呆れることだなあ。何かの霊が取り付いて(気がおかしく)いらっしゃるのですか」
といったので、
絵仏師良秀
「どうして物の怪がとりつくことがあろうか。
長年(私は)不動尊の火炎を下手くそに書いてきたものだ。
今見ると、(炎は)このように燃えるものだなあと、納得がいったのですよ。
これ(いままで下手くそに描いていた炎の燃え方がわかったということ)こそが儲けものですよ。
この道(仏の絵を描くという仕事)を生業にして、世に生きていくには、
(今住んでいる家や、妻子はともかく、)仏さえすばらしくお描き申し上げれば、百軒でも千軒の家でも建つにちがいありません。
あなた方の方こそ、(生業となるような)これといった才能もお持ちでないので、物惜しみもなさるのです。」
その(自分の家が焼けたのに儲けものだといった)後のことであろうか、良秀のよぢり不動(火焔のよじれ方に迫力のある不動明王)といって、(良秀の描く仏の絵は)今でも人々がもてはやしているのは。