絵仏師良秀

火事の見舞いに来た人々は、

人ども
「(自分の家が焼けてしまったのに、儲けものをしたと言っているなんて、)

これはどうして、このように(燃える自分の家の前でただただ炎を眺めて)立っているのだ。

驚き呆れることだなあ。何かの霊が取り付いて(気がおかしく)いらっしゃるのですか」

といったので、

絵仏師良秀
「どうして物の怪がとりつくことがあろうか。

長年(私は)不動尊の火炎を下手くそに書いてきたものだ。

今見ると、(炎は)このように燃えるものだなあと、納得がいったのですよ。

これ(いままで下手くそに描いていた炎の燃え方がわかったということ)こそが儲けものですよ。

この道(仏の絵を描くという仕事)を生業にして、世に生きていくには、

(今住んでいる家や、妻子はともかく、)仏さえすばらしくお描き申し上げれば、百軒でも千軒の家でも建つにちがいありません。

あなた方の方こそ、(生業となるような)これといった才能もお持ちでないので、物惜しみもなさるのです。」

と言って、あざ笑って立っていた

その(自分の家が焼けたのに儲けものだといった)後のことであろうか、良秀のよぢり不動(火焔のよじれ方に迫力のある不動明王)といって、(良秀の描く仏の絵は)今でも人々がもてはやしているのは。

 

品詞分解

「いかに。」 副詞
格助詞
名詞
言ひ ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
向かひ 名詞
格助詞
立ち タ行四段活用動詞「立つ」連用形
て、 接続助詞
名詞
格助詞
焼くる カ行下二段活用動詞「焼く」連体形
格助詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
て、 接続助詞
うちうなづき 接頭語+カ行四段活用動詞「うなづく」連用形
て、 接続助詞
ときどき 名詞
笑ひ ハ行四段活用動詞「笑ふ」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形
「あはれ、 感動詞
サ行変格活用動詞「す」連用形
つる 完了の助動詞「つ」連体形
せうとく 名詞
かな。 終助詞
年ごろ 名詞
係助詞
わろく ク活用形容詞「わろし」連用形
かき カ行四段活用動詞「かく」連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
もの 名詞
かな。」 終助詞
格助詞
言ふ ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形
名詞
に、 格助詞
とぶらひ 名詞
格助詞
カ行変格活用動詞「来(く)」連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
者ども、 名詞
「こ 代名詞
係助詞
いかに、 副詞
かくて 副詞
係助詞
立ち タ行四段活用動詞「立つ」連用形
たまへ 尊敬語補助動詞

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