あはれに同じやうなるもののさまかなと見侍りしに、
これらうち笑ひ見かはしていふやう
「年頃昔の人に対面して、いかで世の中の見聞く事をも聞こえ合はせむ、
このただ今の入道殿下の御有様をも申し合はせばやと思ふに、
あはれに嬉しくもあひ申したるかな。
現代語訳
ほんとにまあ、(三人ともそろって)同じような老人たちだなあ
と(思って)見ておりましたところ、
この老人たちは、笑いながら、たがいに顔を見かわして、
(そのうちの一人=大宅の世継が)言うことには、
「年来、わたくしは昔なじみの人にお目にかかって、
何とかして世の中の(今まで)見聞きした事について、
互いに話し合い申したい、
(また)現在の入道殿下(=藤原道長公)のごようすをも
互いに話し合い申したいと思っていましたところ、
ほんとにうれしいことにも、 (このように)
お会い申したことですよ。
品詞分解
あはれに | ナリ活用形容動詞「あはれなり」連用形 | ||||
同じ | シク活用形容詞「同じ」連体形 | ||||
やう | 名詞 | ||||
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 | ||||
もののさま | 名詞 | ||||
かな | 終助詞 | ||||
と | 格助詞 | ||||
見 | マ行上一段活用動詞「見る」連用形 | ||||
侍り | 丁寧の補助動詞「侍り」連用形 | 丁寧語 | 補助動詞 | 作者⇒読者 | ~ます |
し | 過去の助動詞「き」連体形 | ||||
に | 接続助詞、 | ||||
これら | 代名詞+接尾語 | ||||
うち笑ひ | ハ行四段活用動詞「うち笑ふ」連用形 | ||||
見かはし | サ行四段活用動詞「見かはす」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 | ||||
やう、 | 名詞 | ||||
「年頃 | 名詞 | ||||
昔 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
人 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
対面し | サ行変格活用動詞「対面す」連用形「たいめ」と読む | ||||
て、 | 接続助詞 | ||||
いかで | 副詞 | ||||
世 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
中 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
見聞く | カ行四段活用動詞「見聞く」連体形 | ||||
事 | 名詞 | ||||
を | 格助詞 | ||||
も | 係助詞 | ||||
聞こえ合はせ | 謙譲語サ行下二段活用動詞「聞こえ合はす」未然形 | 謙譲語 | 本動詞 | 爺さんの一人=大宅世継⇒もう一人の爺さん=夏山繁樹 | (言ひ合はす)互いに心の隔てなくお話し申し上げる |
む、 | 意志の助動詞「む」終止形 | ||||
こ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
ただ今 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
入道殿下 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
御有様 | 名詞 | ||||
を | 格助詞 | ||||
も | 係助詞 | ||||
申し合はせ | サ行下二段活用動詞「申し合はす」未然形 | 謙譲語 | 本動詞 | 爺さんの一人=大宅世継⇒もう一人の爺さん=夏山繁樹 | (言ひ合はす)相談申し上げる。お話申し上げる上の「聞こえ合はす 」と同じ |
ばや | 希望の終助詞 | ||||
と | 格助詞 | ||||
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 | ||||
に、 | 接続助詞 | ||||
あはれに | ナリ活用形容動詞「あはれなり」連用形 | ||||
嬉しく | シク活用形容詞「嬉し」連用形 | ||||
も | 係助詞 | ||||
あひ | ハ行四段活用動詞「あふ」連用形 | ||||
申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形 | 謙譲語 | 補助動詞 | 翁の一人=大宅世継⇒王ひとりの翁=夏山繁樹 | ~申し上げる |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 | ||||
かな。 | 終助詞 |
語の解説
あはれに | しみじみと感動する様子をあらわす。「あはれに~~かな」で「ほんとにまあ~~だなあ」 |
もののさま | 全体で一語として扱う。様子。「もの」は漠然とした対象で、「もののあはれ」のものとおなじ。 |
いふやう | 「やう」は形式名詞。いうことには |
年頃 | 長年。ずっと前から。月ごろ、日ごろなどが類語。 |
昔の人 | 1古人2昔馴染みの人ここは2後出の「昔の人」は1 |
対面して | お目にかかって。「たいめ」とよむ。「うりんいん」と同じで「ん」は省く |
いかで | 「どうして」と疑問・反語をあらわす「む・まし・ばや・がな」などが来るときは、「何とかして・ぜひ」の意味。ここは「~聞こえ合はせむ」「~申し合はせばや」と呼応※「む」は連体形! |
聞こえ合はせばや | 「聞こゆ」は「申し上げる」という意味の謙譲語「ばや」は自己の希望をあらわす。 |
入道殿下 | 藤原道長。966-1027年。「入道」は、仏門に入った人。「殿下」は本来は皇族の敬称だが、摂政・関白にも使われるようになった。道長は実際上の関白および摂政の地位を経たので「殿下」、寛仁3年1019年に出家しているので「入道」という。 |
申し合はせばや | 「申す」は「言ふ」の謙譲語。ここは動詞 |
嬉しくもあひ申したるかな | 逢えてうれしい。nice to meet you!ということですね。ここの「申す」は上に動詞「あふ」があるので謙譲補助動詞「~申し上げる」 |
今ぞ心やすく黄泉路もまかるべき。
おぼしき事いはぬは、げにぞ腹ふくるるここちしける。
現代語訳
もうこれで安心して、
あの世にも行くことができそうでございます。
心に思っていることを言わないのは、
(ことわざにもあるように)ほんとうに腹がはっているような
(いやな)気持ちがするものですなあ。
品詞分解
今 | 名詞 | ||||
ぞ | 係助詞(係り結び) | ||||
心やすく | ク活用形容詞「心やすし」連用形 | ||||
よみぢ | 名詞 | ||||
も | 係助詞 | ||||
まかる | ラ行四段活用動詞「まかる」終止形 | 謙譲語 | 本動詞 | 大宅世継⇒夏山繁樹 | (行く)参る |
べき。 | 可能の助動詞「べし」連体形(「ぞ」結び) | ||||
おぼしき | シク活用形容詞「おぼし」連体形 | ||||
事 | 名詞 | ||||
いは | ハ行四段活用動詞「いふ」未然形 | ||||
ぬ | 打消 の助動詞「ず」連体形 | ||||
は、 | 係助詞 | ||||
げに | 副詞 | ||||
ぞ | 係助詞(係り結び) | ||||
腹 | 名詞 | ||||
ふくるる | ラ行下二段活用動詞「ふくる」連体形 | ||||
ここち | 名詞 | ||||
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 | ||||
ける。 | 詠嘆の助動詞「けり」連体形(「ぞ」結び) |
語の解説
よみぢ | 黄泉路。あの世(冥土)へ行く道。「黄泉」は死者の国。「へ」を補って考える。 |
まかる | 「行く」の謙譲語 |
おぼしきこと | 「おぼし」は「こうありたいと思われる」。こうあってほしいと思うこと。 |
げに | ほんとうに。なるほどそのほんとうに。なるほどそのとおり。前に出ている人のことばや引用文などを受けて、これを肯定する意を表わす。ここは「おぼしき事……わざなり」を肯定したもので、 このことばは、「徒然草」(29段)にもあって、当時のことわざだったようですね。 |
心地しける | 「ける」は、そのことに気づいて詠嘆する意。「思えば~である(であった)」。「げにぞ~ける」は係り結び! |
コメント
誰かに話してスッキリしたい!というのと、
トイレに行って我慢していたアレをだしてスッキリしたい!
というのは同じ感覚なんですね!?
最近、教えている小学生が色気づいてきていて、
やたら好きな人の話や下の話をしてきたがりますが、
彼らの方が大宅世継の感覚に近そうですね。