序七につづく
このあと、この二人の老人の出会いに、
30歳くらいの侍が興味を持って、話しかけます。
世継は、自分の年齢は190歳、
繁樹は180歳くらいになるはずだといいます。
そして、世継は講師=読経アーティスト=坊さんを待つ間、
昔物語をして聞かせようと提案します。
ここから飛んで、序の七に入ります。
「まめやかに世継が申さむことは、ことごとかは。
ただ今の入道殿下の御ありさまの、よにすぐれておはしますことを、
道俗男女の御前にて申さむと思ふが、いとこと多くなりて、
あまたの帝王・后、また、大臣・公卿の御上を続くべきなり。
その中に、幸ひ人におはします、この御ありさま申さむと思ふほどに、
世の中のこと隠れなくあらはるべきなり。」
現代語訳
(世継はさらにことばをついで)
「真実、私(世継)がお話し申そうと思っている事は、
ほかの事ではありません。
現在の入道殿下(道長公)の御有様が
一世にすぐれていらっしゃることを、
(お集まりの)道俗男女の皆様の御面前で
お話し申そうと思う(のですが、それが)、
たいそう話の範囲が広がって、
多くの帝・后、また大臣・公卿といったお方々について、
つぎつぎとお話し申すことになってゆくのです。
それらの方々の中で(第一の)幸連児でいらっしゃる
この(入道殿下の)御有様をお話し申そうとしているうちに、
世の中の事がらが残らず明らかになってゆくはずです。
品詞分解
まめやかに | ナリ活用形容動詞「まめやかなり」連用形 | ||||
世継 | 名詞 | ||||
が | 格助詞 | ||||
申さ | 謙譲語サ行四段活用動詞「申す」未然形 | 謙譲語 | 本動詞 | 大宅世継⇒夏山繁樹、侍、周りの人々 | (言ふ)申し上げる |
む | 意志の助動詞「む」終止形 | ||||
と | 格助詞 | ||||
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 | ||||
事 | 名詞 | ||||
は | 係助詞 | ||||
異事 | 名詞 | ||||
かは。 | 反語 | ||||
ただ今 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
入道殿下 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
御ありさま | 名詞 | ||||
の、 | 格助詞 | ||||
世 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
すぐれ | ラ行下二段活用動詞「すぐる」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
おはします | 尊敬の補助動詞サ行四段活用動詞「おはします」連体形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 大宅世継⇒藤原道長 | ~いらっしゃる |
こと | 名詞 | ||||
を、 | 格助詞 | ||||
道俗男女 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
御前 | 名詞 | ||||
にて | 格助詞 | ||||
申さ | 謙譲語サ行四段活用動詞「申す」未然形 | 謙譲語 | 本動詞 | 大宅世継⇒周りのみんな | (言ふ)申し上げる |
む | 意志の助動詞「む」終止形 | ||||
と | 格助詞 | ||||
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 | ||||
が、 | 格助詞 | ||||
いと | 副詞 | ||||
言 | 名詞 | ||||
多く | ク活用形容詞「多し」連用形 | ||||
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 | ||||
て、 | 接続助詞 | ||||
あまた | 副詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
帝王・后、 | 名詞 | ||||
また | 接続詞 | ||||
大臣・公卿 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
御上 | 名詞 | ||||
を | 格助詞 | ||||
続く | カ行下二段活用動詞「続く」終止形 | ||||
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 | ||||
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 | ||||
そ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
中 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
幸人 | 名詞 | ||||
に | 断定の助動詞「なり」連用形 | ||||
おはします | 「おはします」連体形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 大宅世継⇒藤原道長 | ~いらっしゃる |
こ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
御ありさま | 名詞 | ||||
申さ | 謙譲語サ行四段活用動詞「申す」未然形 | 謙譲語 | 本動詞 | 大宅世継⇒周りのみんな | ~申し上げる |
む | 意志の助動詞「む」終止形 | ||||
と | 格助詞 | ||||
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 | ||||
ほど | 名詞 | ||||
に、 | 格助詞 | ||||
世 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
中 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
事 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
隠れなく | ク活用形容詞「かくれなし」連用形 | ||||
あらはる | ラ行下二段活用動詞「あらはる」終止形 | ||||
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 | ||||
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
語の解説
まめやかに | まじめに。真実に。 |
異事かは | 他のことではない。道長の栄華について話したいのだの意味。 |
入道殿下 | 道長のこと |
世に | 1下に形容詞・形容動詞が来るときには、副詞で、「実に、非常に、はなはだ」。2下に打消の語を伴って、副詞で「けっして、よもや」3下に動詞や形容詞「なし」がきて、名詞「世」+格助詞「に」で、「世の中に」ここは「すぐれておはします」が状態をあらわすので、1ともとれるが、「一世にすぐれて」とみて3にとる。※学校の先生に確認しておこう! |
すぐれておはします | 「すぐれたり」⇒「すぐれてあり」⇒ 「すぐれておはします」。「(て)おはします」は「(て)いらっしゃる」意の尊敬補助動詞。 |
道俗男女 | 「道」は仏道にはいった人。僧尼。出家した人。「俗」は出家しない人。在家の人。道俗男女でそこに居会わせたすべての人。 |
思ふが | 「が」は主格の助詞。「思ふその事が」の意。 |
言多くなりて | 話すべきことがたくさんになって。話の範囲が広まって。話が多方面にわたって。 |
后 | 主として皇后・中宮。 |
大臣 | 大臣は大政大臣・左大臣・右大臣(以上を三公という)と内大臣。「大臣・公卿」は上流貴族を言うときの慣用表現。 |
公卿 | 「公」は大臣。 「卿」は大納言・中納言・参議までの職をいい、位は三位以上)。参議は四位でもよい)=上達部。「大臣・公卿」というとき の公卿は大臣を除いたものをいう。 |
御上 | 御身の上。御身についての言。 |
続くべきなり | 「べき」は当然。当然、言及してゆくことになるのである。 |
その中に | 上は帝から下は公卿に至るまで、これから述べてゆく人々の中で。 |
幸人 | 幸福者。幸運児。 |
におはします | 「なり」⇒「にあり」⇒「におはします」「に」は断定の助動詞「なり」 |
この | 「こ」は道長 |
あらはるべきなり | 「べき」は当然。明らかになってゆくはずである。 |