主はその御時の母后の宮の御方のめしつかひ
高名の大宅の世継とぞいふ侍りしかしな。
現代語訳
(夏山繁樹)あなたは、その御代の(帝の)母后の宮様の御所の召使で
有名な大宅の世継といいましたなあ。
品詞分解
主 | 名詞 | ||||
は | 係助詞 | ||||
そ | 代名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
御時 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
母后の宮の御方 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
めしつかひ | 名詞 | ||||
高名 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
大宅の世継 | 名詞 | ||||
と | 格助詞 | ||||
ぞ | 係助詞(係り結び) | ||||
いひ | ハ行四段活用動詞「いふ」連用形 | ||||
侍り | 丁寧の補助動詞ラ行変格活用動詞「侍り」連用形 | 丁寧語 | 補助動詞 | 夏山繁樹⇒大宅世継 | ~ます |
し | 過去の助動詞「き」連体形(「ぞ」結び) | ||||
かし | 終助詞 | ||||
な。 | 終助詞 |
語の解説
主 | あなた。敬意を表した言い方。 |
その御時 | 宇多天皇の御代 |
母后の宮 | 母である后の意味で、皇太后を指す。宇多天皇の御母后。光孝天皇の皇后てあった班子女王(833-900年)のこと。宇多天皇の皇后の藤原胤子(いんし)(?-896年)とする説もある。 |
大宅世継 | 『大鏡』の中で、中心となる話手とされている老人の名。公=パブリックな代々の歴史を語る者という意味をこめた架空の人名。 |
とぞいひ侍りしかしな | 「とぞ~りし」が係結ぴ。係結びで完結した文のあとに、終助詞の「かし(念を押して意味を強める)」「な(感動)」のついた形。 このような場合は結びが流れたとはいわない。 |
されば、主の御年は、おのれにはこよなくまさり給へらむかし。
みづからが小童にてありし時、
主は二十五、六ばかりのをのこにてこそはいませしか」といふめれば、
現代語訳
(夏山繁樹)すると、あなた(=大宅世継)のお年は、私よりは、ずっと上でいらっしゃるでしょう。
私(夏山繁樹)が(まだ)ほんの子供であった時分に、
あなた(大宅世継)は(たしか)二十五、六歳ぐらいの
一人まえの男でいらっしゃいました。」と言うと、
品詞分解
されば、 | 接続詞 | ||||
主 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
御年 | 名詞 | ||||
は、 | 係助詞 | ||||
おのれ | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
は | 係助詞 | ||||
こよなく | ク活用形容詞「こよなし」連用形 | ||||
まさり | ラ行四段活用動詞「まさる」連用形 | ||||
給へ | 尊敬の補助動詞「給ふ」ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 夏山繁樹⇒大宅世継 | ~なさる |
ら | 完了の助動詞「る」未然形 | ||||
む | 推量の助動詞「む」終止形 | ||||
かし。 | 終助詞 | ||||
みづから | 名詞 | ||||
が | 格助詞 | ||||
小童 | 名詞 | ||||
に | 断定の助動詞「なり」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
あり | 補助動詞ラ行変格活用動詞「あり」連用形 | ||||
し | 過去の助動詞「き」連体形 | ||||
時、 | 名詞 | ||||
主 | 名詞 | ||||
は | 係助詞 | ||||
二十五、六 | 名詞 | ||||
ばかり | 副助詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
をのこ | 名詞 | ||||
に | 断定の助動詞「なり」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
こそ | 係助詞(係り結び) | ||||
は | 係助詞 | ||||
いませ | サ行四段活用動詞「います」連用形 | 尊敬語 | 補助動詞 | 夏山繁樹⇒大宅世継 | (あり)いらっしゃる |
しか」 | 過去の助動詞「き」已然形 | ||||
と | 格助詞 | ||||
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」終止形 | ||||
めれ | 推量の助動詞「めり」已然形 | ||||
ば、 | 接続助詞 |
語の解説
まさり給へらむかし | 「ら」は完了「り」の未然形で「ている」の意味。まさっていらっしゃるでしょう。 |
みづから | 私。自称の代名詞。 |
いませしか | 「います」は補助助詞「(にて)あり」の尊敬語。「……(で)いらっしゃる。」「しか」は上の「をのこにてこそ」の結び。 |
大宅世継 | 大鏡の中で、中心となる詰 手とされている老人の名。 |