要旨
雲林院の菩提講
(=読経ライブ、みんなで『法華経』読んで天国に行っちゃおうぜという会)に参会した人の中に、
二人の老人と一人の老女が来合わせた。
大宅世継・夏山繁樹・繁樹の後添いの女の三人である。
今回の話で出てくる、二人の老人(登場人物は+作者)はきょうの出会いを喜び、
多年見聞してきたことをここで語り合いたいという。
「ただ今の入道殿下の御有様をも申し合はせばや」
=いまブイブイ言わせている道長さまのことを語ろうぜ!
というところに、
「大鏡」を書いた目的が書かれてます。
また、一部序ノ七の部分も載せておきます。
ここにも『大鏡』の目的が書かれてます。
さいつ頃、雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば、
例人よりはこよなう年老い、うたてげなる翁ふたり媼といきあひて
同じところにゐぬめり。
現代語訳
先ごろ、(わたくし=作者が)、
雲林院の菩提講に参詣いたしましたところ、
普通の人に比べて格別に年をとって、
異様な感じのする爺さん二人と婆さん(一人)とが来会わせて、
同じ場所にすわっていました。
品詞分解
さいつ頃、 | 名詞 | ||||
雲林院 | 名詞 | ||||
の | 格助詞 | ||||
菩提講 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
詣で | ダ行下二段活用動詞「詣づ」連用形 | 謙譲語 | 本動詞 | 作者⇒雲林院の菩提講 | 参詣する |
て | 接続助詞 | ||||
侍り | 丁寧の補助動詞「侍り」連用形 | 丁寧語 | 補助動詞 | 作者⇒読者 | ~ます |
しか | 過去の助動詞「き」已然形 | ||||
ば、 | 接続助詞 | ||||
例人 | 名詞 | ||||
より | 格助詞 | ||||
は | 係助詞 | ||||
こよなう | ク活用形容詞「こよなし」連用形「こよなく」ウ音便 | ||||
年 | 名詞 | ||||
老い、 | ヤ行上二段活用動詞「老ゆ」連用形 | ||||
うたてげなる | ナリ活用形容動詞「うたてげなり」連体形 | ||||
翁 | 名詞 | ||||
ふたり | 名詞 | ||||
媼 | 名詞 | ||||
と | 格助詞 | ||||
いきあひ | ハ行四段活用動詞「いきあふ」連用形 | ||||
て | 接続助詞 | ||||
同じ | シク活用形容詞「同じ」連体形 | ||||
所 | 名詞 | ||||
に | 格助詞 | ||||
ゐ | ワ行上一段活用動詞「ゐる」連用形 | ||||
ぬ | 強意の助動詞「ぬ」終止形 | ||||
めり。 | 婉曲の助動詞「む」終止形 |
語の解説
さいつ頃 | 「さき(先)つ頃」のイ音便。「つ」は連体格で「の」の意。後一条天畠の万寿二年(1025年)の五月と思われる。 |
雲林院 | 京都市北区紫野にあった天台宗の寺。観音堂が現存する。「うんりんゐん」の「ん」を省いた読み方。「うりゐん・うりゐ」となっている場合もある。 |
菩提講 | 極楽往生を求める人のために『法華経』を説教する法会。「菩提」は梵悟Bodhiの音訳。極楽往生・成仏の意の雲林院の菩提講は五月に行なわれた。 |
詣でて侍りしかば | 「詣づ」は参詣するの謙譲語「詣でたり⇒詣でてあり⇒詣でて侍り」で丁寧体になっている。「しかば」は已然形+ばで「~したところ」 |
例人 | 普通の人、一般の人。「例の人」になっている本もある。 |
こよなう | 「こよなく」のウ音便。この上なく。格別に |
うたてげなる | 異様な。怪しげな。信じられないほど年を取った老人だからである。 |
媼 | 老女。「おうな・おむな」は「老女」「をうな。をむな」は「女」区別しよう!! |
同じ | 形は終止形だが、連体形「同じき」と同じように用いられる。上の表では連体形にしましたが、ここは学校の先生に聞いておこう! |
ゐぬめり | 「ゐ=ゐる」は「すわる」「ぬ」は強意・確述「めり」は婉曲。訳さなくてOK! |