松浦宮物語明けむ年品詞分解現代語訳

この国の境をだにいかでかは離れ。」
のたまひて、去年より松浦の山に宮を造りて、

「帰り給はまでは、そなたの空を見

若き老いたるとなき浮かべ身の、遠き船路にさへ
漕ぎ離れ給はに、浪風の心も知ら
誰もむなしくあひ見身とならば、
やがてその浦に身をとどめて、
天つ領巾振りけむ例ともなりなむ。」と出で立ち給へば、

現代語訳

(氏忠の父の)大将は、(自分の妻で氏忠の母である宮に)

「(今の大阪港付近で遣唐使船の出港地である)

難波の浦(=海岸)まで送ろう」とおっしゃったが、

母宮は、「(日本国内は守護するという)制限のある神の誓いに従わない

=逸脱するので、(神の加護がない)唐土まで氏忠に同行するのは

できないでしょうが、どうしてせめてこの国(=日本)(と唐土=中国)

の国境(である松浦)だけでも、

どうしてはなれるでしょうか。(いや、離れない)

 

と母宮はおっしゃって、去年(出航の前年)から松浦の山に

御殿を造って、

「氏忠が唐からお帰りになる時までは(氏忠のいる)そちら(=唐のある方角)

の空をみよう。若いとか年をとっているとかに関係なく(いつ死ぬかわからない)

はかない人の身で、(さらに死の危険の高い)遠い(唐までの)航海にまで

(我が子氏忠は)船を漕ぎ離れていくのに、

波や風の意志もわからず=どうなるかわからず、

風波の災難にあって、(待つ甲斐もなく)誰もむなしくお互いに再会できない

身となったなら、(私は)そのままその浦=松浦にとどまって

天女が肩に掛ける薄く細長い布=領巾を振ったとかいう(松浦佐用姫の先の)

例にもなってしまいましょう(=もう都には帰ってこないよ)と言って

出発なさるので

品詞分解

大将 名詞
係助詞
「難波 名詞
格助詞
名詞
まで 副助詞
送ら ラ行四段活用動詞「送る」未然形
む。」 意志の助動詞「む」終止形
格助詞
のたまひ マ行四段活用動詞「のたまふ」連用形 尊敬語 本動詞 作者→大将 おっしゃっる
しか 過去の助動詞「き」已然形
接続助詞
母宮 名詞
「限り 名詞
あら ラ行変格活用動詞「あり」未然形
婉曲の助動詞「む」連体形
名詞
格助詞
誓ひ 名詞
格助詞
こそ 係助詞(係り結び)
添は ハ行四段活用動詞「添ふ」未然形
ざら 打消の助動詞「ず」未然形
推量の助動詞「む」已然形(「こそ」結び)
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
だに 副助詞
いかで 副詞
かは 係助詞(係り結び)
離れ ラ行下二段活用動詞「離る」未然形
む。」 意志の助動詞「む」連体形(「か(は)」結び)
格助詞
のたまひ ハ行四段活用動詞「のたまふ」連用形 尊敬語 本動詞 作者→母宮 おっしゃっる
接続助詞
去年 名詞
より 格助詞
松浦 名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
造り ラ行四段活用動詞「造る」連用形
接続助詞
「帰り ラ行四段活用動詞「帰る」連用形
給は ハ行四段活用動詞「給ふ」未然形 尊敬語 補助動詞 母宮⇒氏忠 ~なさる
推量の助動詞「む」連体形
まで 副助詞
係助詞
そなた 代名詞
格助詞
名詞
格助詞
マ行上一段活用動詞「見る」未然形
む。 意志の助動詞「む」終止形
若き ク活用形容詞「若し」連体形
老い ヤ行上二段活用動詞「老ゆ」連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
格助詞
なき ク活用形容詞「なし」連体形
浮かべ バ行四段活用動詞「浮かぶ」已然形
完了の助動詞「り」連体形
名詞
格助詞
遠き ク活用形容詞「遠し」連体形
船路 名詞
格助詞
さへ 副助詞
漕ぎ離れ ラ行下二段活用動詞「漕ぎ離る」連用形
給は ハ行四段活用動詞「給ふ」未然形 尊敬語 補助動詞 母宮⇒氏忠 ~なさる
推量の助動詞「む」連体形
接続助詞
浪風 名詞
格助詞
名詞
係助詞
知ら ラ行四段活用動詞「知る」未然形
打消の助動詞「ず」連用形
代名詞
係助詞
むなしく シク活用形容詞「むなし」連用形
あひ見 マ行上一段活用動詞「あひ見る」未然形
打消の助動詞「ず」連体形
名詞
格助詞
なら ラ行四段活用動詞「なる」未然形
接続助詞
やがて 副詞
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
とどめ マ行下二段活用動詞「とどむ」連用形
接続助詞
名詞
格助詞
領巾 名詞
振り ラ行四段活用動詞「振る」連用形
けむ 過去推量の助動詞「けむ」連体形
名詞
格助詞
係助詞
なり ラ行四段活用動詞「なる」連用形
強意の助動詞「ぬ」未然形
む。」 意志の助動詞「む」終止形
格助詞
出で立ち タ行四段活用動詞「出で立つ」連用形
給へ ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 尊敬語 補助動詞 作者→母宮 ~なさる
接続助詞

大将、限りある宮仕へを、許され給はど、

「住み給はさまをだに見置か。」と添ひ給へれば、
道のほどことに変はれしるしもなし。