その夜、上のいとなつかしう昔物語などし給ひし御さまの、
院に似たてまつり/給へり/しも、恋しく思ひ出で聞こえ/給ひて、
「恩賜の御衣は今ここにあり」と誦じつつ入り給ひぬ。
現代語訳
その夜、朱雀帝がまったくいつも側におりたい感
じで昔話などをなさった御様子が、桐壺院にお似
申し上げになっていたのも、
恋しくお思い出し申し上げになって、
「恩賜の御衣は今ここにあり」
と声を出してお読みになりながら奥にお入りになってしまった。
品詞分解
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
夜、 | 名詞 |
上 | 名詞 |
の | 格助詞 |
いと | 副詞 |
なつかしう | シク活用形容詞「なつかし」連用形「なつかしく」ウ音便 |
昔物語 | 名詞 |
など | 副助詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形
尊敬語補助動詞 筆者⇒上 |
し | 過去の助動詞「き」連体形
接続は連用形(カ変・サ変は特別) |
御さま | 名詞 |
の、 | 格助詞 |
院 | 名詞 |
に | 格助詞 |
似 | ナ行上一段活用動詞「似る」連用形 |
奉り | 謙譲語ラ行四段活用動詞「奉る」連用形
筆者⇒院 |
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形
尊敬語補助動詞 筆者⇒上 |
り | 完了の助動詞「り」連用形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形
接続は連用形(カ変・サ変は特別) |
も、 | 係助詞 |
恋しく | シク活用形容詞「恋し」連用形 |
思ひ出で | ダ行下二段活用動詞「思ひ出づ」連用形 |
聞こえ | 謙譲語ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」連用形
筆者⇒上 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形
尊敬語補助動詞 筆者⇒源氏 |
て、 | 接続助詞 |
「恩賜 | 名詞 |
の | 格助詞 |
御衣 | 名詞 |
は | 係助詞 |
今 | 名詞 |
ここ | 代名詞 |
に | 格助詞 |
あり」 | ラ行変格活用動詞「あり」」終止形 |
と | 格助詞 |
誦じ | サ行変格活用動詞「誦す」連用形 |
つつ | 接続助詞 |
入り | ラ行四段活用動詞「入る」連用形 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形
尊敬語補助動詞 筆者⇒源氏 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形
接続は連用形 |
御衣はまことに身をはなたず、かたはらに置き給へり。
現代語訳
御召物は本当に身を離さず、側にお置きになってある。
品詞分解
御衣 | 名詞 |
は | 係助詞 |
まことに | 副詞 |
身 | 名詞 |
を | 格助詞 |
放た | タ行四段活用動詞「放つ」未然形 |
ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形
接続は未然形 |
かたはら | 名詞 |
に | 格助詞 |
置き | カ行四段活用動詞「置く」連用形 |
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形
尊敬語補助動詞 筆者⇒源氏 |
り。 | 完了の助動詞「り」終止形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
源氏
うしとのみひとへにものは思ほえで
ひだりみぎにもぬるる袖かな
現代語訳
つらいとばかり一途に物は思われないで、
左も右もそれぞれの涙で濡れる袖であるよ。
品詞分解
うし | ク活用形容詞「うし」終止形 |
と | 格助詞 |
のみ | 副助詞 |
ひとへに | 副詞 |
もの | 名詞 |
は | 係助詞 |
思ほえ | ヤ行下二段活用動詞「思ほゆ」未然形 |
で | 接続助詞 |
ひだりみぎ | 名詞 |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
ぬるる | ラ行下二段活用動詞「ぬる」連体形 |
袖 | 名詞 |
かな | 終助詞 |