白き綾のなよよかなる、紫苑色など奉りて、
こまやかなる御直衣、帯しどけなくうち乱れ給へる御さまにて、
「釈迦牟尼仏弟子」と名乗りて、ゆるるかによみ給へる、
また世に知らず聞こゆ。
現代語訳
白い綾の柔らかな下着に、紫苑色の指貫などお召しになって、
色が濃い御直衣に、帯もしどけなくおくつろぎになっている
ご様子であって、
「釈迦牟尼仏弟子」と名のって、
経文をゆっくりとお読みになっているのは、
また世間に例を知らず聞こえる。
品詞分解
白き | ク活用形容詞「しろし」連体形 |
綾 | 名詞 |
の | 格助詞 |
なよよかなる、 | ナリ活用形容動詞「なよよかなり」連体形 |
紫苑色 | 名詞 |
など | 副助詞 |
奉り | ラ行四段活用動詞「奉る」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
こまやかなる | ナリ活用形容動詞「こまやかなり」連体形 |
御直衣、 | 名詞 |
帯 | 名詞 |
しどけなく | ク活用形容詞「しどけなし」連用形 |
うち乱れ | ラ行下二段活用動詞「うち乱る」連用形 |
給へ | 尊敬の補助動詞「給ふ」ハ行四段活用動詞已然形 |
る | 完了の助動詞「り」連体形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
御さま | 名詞 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形
接続は体言連体形など |
て、 | 接続助詞 |
「釈迦牟尼仏弟子」 | 名詞 |
と | 格助詞 |
名のり | ラ行四段活用動詞「名のる」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
ゆるるかに | ナリ活用形容動詞「ゆるるかなり」連用形 |
よみ | マ行四段活用動詞「よむ」連用形 |
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形
尊敬語補助動詞 筆者⇒源氏 |
る、 | 完了の助動詞「り」連体形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
また、 | 副詞 |
世 | 名詞 |
に | 格助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形
接続は未然形 |
聞こゆ。 | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」終止形 |
沖より舟どものうたひののしりて漕ぎ行くなども聞こゆ。
現代語訳
沖を通って何艘もの舟が大声で歌って子で行く声なども聞こえる。
品詞分解
沖 | 名詞 |
より | 格助詞 |
舟ども | 名詞+接尾語 |
の | 格助詞 |
うたひ | ハ行四段活用動詞「うたふ」連用形 |
ののしり | ラ行四段活用動詞「ののしる」連用形 |
て | 接続助詞 |
漕ぎ行く | カ行四段活用動詞「漕ぎ行く」連体形 |
など | 副助詞 |
も | 係助詞 |
聞こゆ。 | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」終止形 |