ほのかに、ただちひさき鳥の浮かべると見やらるるも、
心細げなるに、雁の、連ねて泣く声楫の音にまがへるを、
うちながめ給へる御手つき、黒き御数珠に映え給へる、
故郷の女戀しき人々、心みな慰みに/けり。
現代語訳
舟の影がほのかに、ただ小さい鳥が浮かんでいる
と自然に眺められるのも、心細そうな感じであるのに、
雁の、列をなしてなく声が楫の音に似ている雁を、
何心なく物思いに沈んでじっと御覧になって、
涙がこぼれるのをお払いになっている手のご様子が、
黒い数珠にうつりあって美しくお見えになっているのには、
故郷の女が恋しい人々は、心がすっかり晴れてしまったよ。
品詞分解
ほのかに、 | ナリ活用形容動詞「ほのかなり」連用形 |
ただ | 副詞 |
ちひさき | ク活用形容詞「ちひさし」連体形 |
鳥 | 名詞 |
の | 格助詞 |
浮かべ | バ行四段活用動詞「浮かぶ」已然形 |
る | 完了の助動詞「り」連体形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
と | 格助詞 |
見やら | ラ行四段活用動詞「見やる」未然形 |
るる | 自発の助動詞「る」連体形
接続は四段・ナ変・ラ変の未然形 |
も、 | 係助詞 |
心細げなる | ナリ活用形容動詞「心細げなり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
雁 | 名詞 |
の、 | 格助詞 |
連ね | ナ行下二段活用「連ぬ」連用形 |
て | 接続助詞 |
鳴く | カ行四段活用動詞「鳴く」連体形 |
声 | 名詞 |
楫 | 名詞 |
の | 格助詞 |
音 | 名詞 |
に | 格助詞 |
まがへ | ハ行四段活用動詞「まがふ」已然形 |
る | 完了の助動詞「り」連体形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
を、 | 格助詞 |
うちながめ | マ行下二段活用動詞「うちながむ」連用形 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形
尊敬語補助動詞 筆者⇒源氏 |
て、 | 接続助詞 |
涙 | 名詞 |
の | 格助詞 |
こぼるる | ラ行下二段活用動詞「こぼる」連体形 |
を | 格助詞 |
かき払ひ | ハ行四段活用動詞「かき払ふ」連用形 |
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 |
る | 完了の助動詞「り」連体形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
御手つき、 | 名詞 |
黒き | ク活用形容詞「くろし」連体形 |
御数珠 | 名詞 |
に | 格助詞 |
映え | ヤ行下二段活用動詞「映ゆ」連用形 |
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形
尊敬語補助動詞 筆者⇒源氏 |
る、 | 完了の助動詞「り」連体形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
故郷 | 名詞 |
の | 格助詞 |
女 | 名詞 |
恋しき | ク活用形容詞「恋し」連体形 |
人々、 | 名詞 |
心 | 名詞 |
みな | 副詞 |
慰み | マ行四段活用動詞「慰む」連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形
接続は連用形 |
けり。 | 詠嘆の助動詞「けり」終止形
接続は連用形 |