はつかりは恋しき人のつらなれや
旅のそら飛ぶ声の悲しき
現代語訳
源氏
初雁は都にいる恋しい人の仲間なのかしら、
旅の空を飛ぶ声の切ないほど悲しいことよ。
品詞分解
初雁 | 名詞 |
は | 係助詞 |
恋しき | シク活用形容詞「恋し」連体形 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
つら | 名詞 |
なれ | 断定の助動詞「なり」已然形
接続は体言連体形など |
や | 係助詞(係り結び) |
旅 | 名詞 |
の | 格助詞 |
空 | 名詞 |
飛ぶ | バ行四段活用動詞「飛ぶ」連体形 |
声 | 名詞 |
の | 格助詞 |
悲しき | シク活用形容詞「かなし」連体形(「や」の結び) |
とのたまへば、義清。
かきつらね昔のことぞ思ほゆる雁はその世のともなら/ねども
現代語訳
と仰ると、義清は、
次々と続けて昔のことが自然に思い出される。
雁はその昔の世の友ではないけれども。
品詞分解
と | 格助詞 |
のたまへ | ハ行四段活用動詞「のたまふ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
義清、 | 名詞 |
かきつらね | ナ行下二段活用動詞「かきつらぬ」連用形 |
昔 | 名詞 |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
ぞ | 係助詞(係り結び) |
思ほゆる | ヤ行下二段活用動詞「思ほゆ」連体形(「ぞ」の結び) |
雁 | 名詞 |
は | 係助詞 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
世 | 名詞 |
の | 格助詞 |
とも | 名詞 |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形
接続は体言連体形など |
ね | 打消 の助動詞「ず」已然形
接続は未然形 |
ども | 接続助詞 |
民部大輔
心から常世をすててなく雁を
雲のよそにも思ひ けるかな
現代語訳
民部大輔は、
自分の心から故郷の常世の国を捨てて鳴く雁を、
今までは雲の外の関係のないことと思っていたことよ。
品詞分解
民部大輔 | 名詞 |
心 | 名詞 |
から | 格助詞 |
常世 | 名詞 |
を | 格助詞 |
すて | タ行下二段活用動詞「すつ」連用形 |
て | 接続助詞 |
なく | カ行四段活用動詞「鳴く」連体形 |
雁 | 名詞 |
を | 格助詞 |
雲 | 名詞 |
の | 格助詞 |
よそ | 名詞 |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
思ひ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連用形 |
ける | 詠嘆の助動詞「けり」連体形
接続は連用形 |
かな | 終助詞 |
前右近将監、
「とこ世いでて旅の空なるかりがねも
つらにおくれぬほどぞなぐさむ
友まどはしてば、いかにはべらまし」といふ。
現代語訳
「常世の国を出て旅の空にいる雁も、
仲間に遅れないで一緒にいる間は慰むことだ。
友を見失ってしまったら、どんなに悲しいことでございましょう」
という。
品詞分解
前右近将監 | 名詞 |
「常世 | 名詞 |
出で | ダ行下二段活用動詞「出づ」連用形 |
て | 接続助詞 |
旅 | 名詞 |
の | 格助詞 |
空 | 名詞 |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形
接続は体言連体形など |
かりがね | 名詞 |
も | 係助詞 |
つら | 名詞 |
に | 格助詞 |
おくれ | ラ行下二段活用動詞「おくる」未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形
接続は未然形 |
ほど | 名詞 |
ぞ | 係助詞(係り結び) |
なぐさむ | マ行四段活用動詞「なぐさむ」連体形「ぞ」の結び |
友 | 名詞 |
まどはし | サ行四段活用動詞「まどはす」連用形 |
て | 完了の助動詞「つ」未然形
接続は連用形 |
ば、 | 接続助詞 |
いかに | ナリ活用形容動詞「いかなり」連用形 |
はべら | ラ行変格活用動詞「はべり」未然形
丁寧語 |
まし」 | 反実仮想の助動詞「まし」終止形
接続は未然形 |
と | 格助詞 |
いふ。 | ハ行四段活用動詞「いふ」終止形 |