須磨には、いとどこころづくしの秋風に、海はすこし遠けれど、
行平の中納言の、「関吹き越ゆる」といひけむ浦波、
夜々はげにいと近く聞こえて、またなくあはれなるものは、
かかる所の秋なり/けり。
現代語訳
須磨では、ひとしお物思いの限りを尽くす秋風によって、
海は少し遠いけれど、行平の中納言が、
「関吹き越ゆる」と詠んだという浦波が、
毎夜はなるほどとても近く聞こえて、
この上なくしみじみとした趣があるものは、
こういう所の秋であったよ。
品詞分解
須磨 | 名詞 |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
いとど | 副詞 |
心づくし | 名詞 |
の | 格助詞 |
秋風 | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
海 | 名詞 |
は | 係助詞 |
すこし | 副詞 |
遠けれ | ク活用形容詞「遠し」已然形 |
ど、 | 接続助詞 |
行平の中納言 | 名詞 |
の、 | 格助詞 |
「関 | 名詞 |
吹き | カ行四段活用動詞「吹く」連用形 |
越ゆる」 | ヤ行下二段活用動詞「越ゆ」連体形 |
と | 格助詞 |
いひ | ハ行四段活用動詞「いふ」連用形 |
けむ | 過去伝聞の助動詞「けむ」連体形 接続は連用形 ◯/◯/けむ/けむ/けめ/◯ |
浦波、 | 名詞 |
夜々 | 名詞 |
は | 係助詞 |
げに | 副詞 |
いと | 副詞 |
近く | ク活用形容詞「近し」連用形 |
聞え | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
またなく | ク活用形容詞「またなし」連用形 |
あはれなる | ナリ活用形容動詞「あはれなり」連体形 |
もの | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
かかる | ラ行変格活用動詞「かかり」連体形副詞「かく」+動詞「あり」の変化形 |
所 | 名詞 |
の | 格助詞 |
秋 | 名詞 |
なり | 断定の助動詞「なり」連用形
接続は体言連体形など |
けり。 | 詠嘆の助動詞「けり」終止形
接続は連用形 |
御前にいと人少なにて、うち休みわたれるに、
一人目をさまして、枕をそばだてて四方の嵐を聞き給ふに、
波ただここもとに立ちくる心地して、涙落つともおぼえぬに、
枕浮くばかりになりにけり。
現代語訳
(源氏の御前に全く人少なであって、(誰も)何心なく休み続けているのに、
源氏は一人目を覚まして、
枕を傾けて四方の荒い激しい風をお聞きになると、
波がただもうこっこのところに湧き起ってくる感じがして、
涙が落ちるとも思われないのに枕が浮くほどになってしまった。
品詞分解
御前 | 名詞 |
に | 格助詞 |
いと | 副詞 |
人少なに | ナリ活用形容動詞「人少ななり」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
うち休みわたれ | マ行四段活用動詞「うち休む」連用形(「うち」は接頭語)+ラ行四段活用動詞「わたる」已然形 |
る | 存続の助動詞「り」連体形
接続はサ変の未然形・四段の已然形 |
に、 | 接続助詞 |
一人 | 名詞 |
目 | 名詞 |
を | 格助詞 |
さまし | サ行四段活用動詞「さます」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
枕 | 名詞 |
を | 格助詞 |
そばだて | タ行下二段活用動詞「そばだつ」連用形 |
て | 接続助詞 |
四方(よも) | 名詞 |
の | 格助詞 |
嵐 | 名詞 |
を | 格助詞 |
聞き | カ行四段活用動詞「聞く」連用形 |
給ふ | 敬語補助動詞
ハ行四段活用動詞「給ふ」連体形 筆者⇒源氏 |
に、 | 接続助詞 |
波 | 名詞 |
ただ | 副詞 |
ここもと | 代名詞 |
に | 格助詞 |
立ちくる | カ行変格活用動詞「立ちく」連体形 |
心地 | 名詞 |
し | サ行四段活用動詞「す」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
涙 | 名詞 |
落つ | タ行上二段活用動詞「落つ」終止形 |
と | 格助詞 |
も | 係助詞 |
おぼえ | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形
接続は未然形 |
に | 接続助詞 |
枕 | 名詞 |
浮く | カ行四段活用動詞「浮く」終止形 |
ばかり | 副助詞 |
に | 格助詞 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形
接続は連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形
接続は連用形 |