見え給ひければ、ものもおぼえて、「身の候はばこそ、
仰せ言も承らめ。」とて、おのおのたち帰り参り給へれば、
現代語訳
粟田殿=道兼公は、(紫宸殿と仁寿殿との間にある)露台(=板張りの台)の外まで、(恐怖で)ぶるぶると震えていらっしゃいましたが、仁寿殿の東側の石を敷いたところのあたりに、(背の高さが仁寿殿の)軒と同じくらいの人がいるようにお見えになったので、正気を失って、「(自分の)身(=命)があってこそ、花山帝のご命令もお引き受けできるのだ。(死んでしまっては無意味だ)」と思って、それぞれ、引き返して清涼殿の殿上の間においでになったので、
品詞分解
粟田殿 | 名詞 |
は | 係助詞 |
露台 | 名詞 |
の | 格助詞 |
外 | 名詞 |
まで | 副助詞 |
わななくわななく | 副詞 |
おはし | 尊敬語本動詞サ行変格活用動詞「おはす」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
に | 接続助詞 |
仁寿殿 | 名詞 |
の | 格助詞 |
東面 | 名詞 |
の | 格助詞 |
みぎり | 名詞 |
の | 格助詞 |
ほど | 名詞 |
に | 格助詞 |
軒 | 名詞 |
と | 格助詞 |
等しき | 等しき |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
やう | 名詞※「やうに」でとるなら比況の助動詞「やうなり」連用形 学校の先生に従うべし! |
に | 格助詞 |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」連用形 |
給ひ | 尊敬語補助動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば | 接続助詞 |
もの | 名詞 |
も | 係助詞 |
おぼえ | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」未然形 |
で | 接続助詞 |
「身 | 名詞 |
の | 格助詞 |
候は | 丁寧語補助動詞ハ行四段活用動詞「候ふ」未然形 |
ば | 接続助詞 |
こそ | 係助詞(係り結び) |
仰せ言 | 名詞 |
も | 係助詞 |
承ら | 謙譲語本動詞ラ行四段活用動詞「承る」未然形 |
め。」 | 推量の助動詞「む」已然形(「こそ」結び) |
とて | 格助詞 |
おのおの | 副詞 |
たち帰り | ラ行四段活用動詞「たち帰る」連用形 |
参り | 謙譲語本動詞ラ行四段活用動詞「参る」連用形 |
給へ | 尊敬語補助動詞ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 |
れ | 完了の助動詞「り」已然形 |
ば | 接続助詞 |
御扇をたたきて笑はせ給ふに、入道殿はいと久しく見えさせ給はぬを、
「いかが」とおぼしめるほどにぞ、いとさりげなく、ことにもあらずげにて、