原文
死生は知らず、やにはに敵八騎射落とす。
その後、打物抜いてあれに馳せ合ひ、これに馳せ合ひ、切つて回るに、面を合はする者ぞなき。
分捕りあまたしたりけり。ただ、
とて、中に取りこめ、雨の降るやうに射けれども、鎧よければ裏かかず、あき間を射ねば手も負はず。
現代語訳
(今井四郎に射られた敵の)死生はわからないが、その場で敵八騎を射落とす。
その後、太刀を抜いてあちらの敵向かったかとおもうと、こちらの敵に向かい、斬って回るが、まともに相手をする者がいない。
多くの敵を殺傷した。敵はただ、
といって、軍勢の中に取り囲んで、まるで雨が降るように(矢を)射ったけれども、(今井四郎の)鎧が良いので裏まで貫通せずに、鎧の隙間を射ないので傷も負はない。
ポイント
- ぞなき 係り結びです。オレンジのマーカーです
- 切つ 促音便 水色のマーカーです。
- 今井四郎がたった一騎で五十騎の中に突撃しているが、それは何のためか?
- →木曽殿の自害を援助するため
品詞分解
死生 | 名詞 |
は | 係助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
やにはに | 副詞 |
敵八騎 | 名詞 |
射落とす。 | サ行四段活用動詞「射落とす」終止形 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
後 | 名詞 |
打ち物 | 名詞 |
抜い | カ行四段活用動詞「抜く」連用形「抜き」イ音便 |
て | 接続助詞 |
あれ | 代名詞 |
に | 格助詞 |
馳せ合ひ | ハ行四段活用動詞「馳せ合ふ」連用形 |
これ | 代名詞 |
に | 格助詞 |
馳せ合ひ | ハ行四段活用動詞「馳せ合ふ」連用形 |
切つ | ラ行四段活用動詞「切る」連用形「切り」促音便 |
て | 接続助詞 |
回る | ラ行四段活用動詞「回る」連体形 |
に | 接続助詞 |
面 | 名詞 |
を | 格助詞 |
合はする | ラ行下二段活用動詞「合はす」連体形 |
者 | 名詞 |
ぞ | 係助詞(係り結び) |
なき。 | ク活用形容詞「なし」連体形(「ぞ」結び) |
分捕り | 名詞 |
あまた | 副詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
たり | 完了の助動詞「たり」連体形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形。 |
ただ | 副詞 |
「射取れ | ラ行四段活用動詞「射取る」命令形 |
や」 | 間投助詞 |
とて | 格助詞 |
中 | 名詞 |
に | 格助詞 |
取りこめ | マ行下二段活用動詞「取り込む」連用形 |
雨 | 名詞 |
の | 格助詞 |
降る | ラ行四段活用動詞「降る」連体形 |
やうに | 比況の助動詞「やうなり」連用形 |
射 | ラ行上一段活用動詞「射る」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ども | 接続助詞 |
鎧 | 名詞 |
よけれ | ク活用形容詞「よし」已然形 |
ば | 接続助詞 |
裏 | 名詞 |
かか | カ行四段活用動詞「かく」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
あき間 | 名詞 |
を | 格助詞 |
射 | ラ行上一段活用動詞「射る」未然形 |
ね | 打消の助動詞「ず」已然形 |
ば | 接続助詞 |
手 | 名詞 |
も | 係助詞 |
負は | ハ行四段活用動詞「負ふ」未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
原文
木曽殿は只一騎、粟津の松原へ駆け給ふが、
正月二十一日入相ばかりのことなるに、薄氷張つたりけり、
深田ありとも知らずして、馬をざつと打ち入れたれば、
馬の頭も見えざりけり。
あふれどもあふれども、打てども打てども働かず。
現代語訳
木曽殿はたった一騎で、粟津の松原へお駆けになるが、
正月二十一日の夕暮れぐらいのことなので、薄い氷が張っていて、
深い田があることも知らなくて、馬をざっと打ち入れたところ、
(めり込んで)馬の頭も見えなかった。
(鐙で馬の腹を)煽っても煽り立てても、(馬に鞭を)打っても打っても馬は動かない。
ポイント
- 尊敬語は緑のマーカー
- 促音便は水色のマーカーです。
- 打てども打てども働かずとは何のどのような状態?
- →馬の、身動きしない状態。
品詞分解
木曽殿 | 名詞 |
は | 係助詞 |
只 | 副詞 |
一騎 | 名詞 |
粟津 | 名詞 |
の | 格助詞 |
松原 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
駆け | カ行下二段活用「駆く」連用形 |
給ふ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連体形
尊敬語補助動詞作者→木曽殿 なさる |
が | 接続助詞 |
正月二十一日 | 名詞 |
入相 | 名詞 |
ばかり | 副助詞 |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
に | 接続助詞 |
薄氷 | 名詞 |
張つ | ラ行四段活用動詞「張る」連用形「張り」促音便 |
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
けり | 過去の助動詞「けり」終止形 |
深田 | 名詞 |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
と | 格助詞 |
も | 係助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
して | 接続助詞 |
馬 | 名詞 |
を | 格助詞 |
ざつと | 副詞 |
打ち入れ | ラ行下二段活用動詞「打ち入る」連用形 |
たれ | 完了の助動詞「たり」已然形 |
ば | 接続助詞 |
馬 | 名詞 |
の | 格助詞 |
頭 | 名詞 |
も | 係助詞 |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」未然形 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形。 |
あふれ | ラ行四段活用動詞「あふる」已然形 |
ども | 接続助詞 |
あふれ | ラ行四段活用動詞「あふる」已然形 |
ども | 接続助詞 |
打て | タ行四段活用動詞「打つ」已然形 |
ども | 接続助詞 |
打て | タ行四段活用動詞「打つ」已然形 |
ども | 接続助詞 |
働か | カ行四段活用動詞「働く」未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
学習塾で八年ぶりに、教鞭をとったのですが、とても分かりやすく、感動しました。47歳になるのですが、私の大学受験の時もこんなのがあれば、随分助かったのに、、と思います。
話が感動極まる作品内容な上に、品詞分解が とても素晴らしく、気持ちがひときわ入り込んでしまい、、頸を切られる所は、感極まり鼻水を垂らして大泣きしてしまい、問題集を涙だらけにしてしまいました。
有難うございました。
そう言っていただけて光栄です!お読みいただきありがとうございます!